悲劇の勇者と名無しの聖女

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「……ナディア」  真面目だ。不真面目だとくだらないことを言い合っていれば、ぽつりと。消えりそうな声で勇者が、兄さんが呟く。 「初めて女の子が生まれたから、皆で頭悩ませて考えたんだ。……やっと、呼べた」 「……ナディア。うん、良い名前だね」 「名前を貰えるなんて、夢みたいです。ありがとうございます兄さん。……兄さん?」  定まっていない視線を見て。もう兄さんの目は私を映せていないのだと。本当に最期なのだと理解してしまって、涙が止まらなくなる。 「兄さん、私を一人にしないで。……ずっと傍にいてください」  握り返してくれない手を。離れてしまわないように強く、強く、握る。 「……ナディア。傍に、いなくても。俺達が家族だってことは、変わらない。ずっと、どこかで、見守ってる」  兄さんの口角がほんの少し上がる。 「……ジーク」 「……何?」 「ナディアを頼む」 「あぁ、わかった。任せてくれ」  笑おうとして、失敗して。それでもジークさんは無理して笑った。 「ありがとう。……ナディア、お休みって、言ってくれないか」 「……え?」  二年前に零した願いを覚えてくれていたというのか。  願いが叶う喜びと。きっとこれが最後になるという悲しみで、胸が裂けてしまいそうだった。だけど、最後になってしまうのならば。 「……お休み、兄さん」 「……あぁ。お休み、ナディア」  そっと目を閉じた兄さんの手を額に押し当てる。 「……ジークさん」 「うん」 「知らないことだらけですね、私達」  封印とか魔王とか知らないことばっかりで嫌になる。 「……そうだね。僕達はあまりに無知だ」 「……私、兄さんに皆に誇れるような聖女になるって言ったんです。だから私は、この悲劇に決着をつけに行きたい」  家族の。仲間の。そして私のために。 「どこへでもついて行くよ。一緒にこの悲劇を終わらせに行こう」  じゃあ明日から頑張らなきゃだしもうここで寝よう、と疲れたように笑って寝転んだジークさんと兄さんの間に横になる。 「お休みナディアちゃん」 「……お休みなさい」  目が覚めたら、二人に笑っておはようって言うんだ。
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