悲劇の勇者と名無しの聖女

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勇者の第一印象は最悪の一言に尽きた。 「なんで俺が魔王討伐なんてしなきゃいけないんだ」 魔王討伐のために集められた私達は、王宮で陛下と謁見していた。その時に勇者が吐いた一言目がそれだった。 これまでずっと国のために生きてきた私には、その言葉が信じられなくて。この国で最も尊いお方にそんな口をきいたことが信じられなくて。 何故そんな事が言えるのかと、謁見後に問い詰めた。国のために戦えるほど名誉なことはないと、訴えた。 そんな私を勇者は「くだらない」と忌々しそうに吐き捨てる。 こんな人間がどうして勇者に選ばれたのかという疑問を覚えても、陛下の決定に口を出せるわけもない。 疑問と不信を抱えて魔王討伐に出た私だったが、そんなことを考える余裕はすぐになくなった。 私は旅をする以前に、神殿から出たことすら無かった。だからたった二時間歩いただけで、足が惨めに悲鳴を上げる。 たださえ歩幅の小さい私に、皆が合わせてくれていて進みが遅かった。これ以上迷惑はかけられないと、痛む足を動かしていれば。 「……なぁ、疲れたし今日はあの町で休まないか。」 怠そうな声に下げていた視線を上げる。声と同じくらい怠そうな態度で、少し先に見える町を指さした勇者に詰め寄る。 「何を言っているんですか。まだお昼すぎたばかりですよ?もっと先に進まないと、」 「責任感があるのは立派だが、それで視野が狭くなってちゃ世話ないぞ。いいか、聖女。俺達は今日会ったばかりで一度も共闘したことがない。そんなんで魔物と戦えると思うか?自分の命預けられると思うか?」 無理だろ?と。憐れむような目で見下ろされて、言葉を失う。 「ちょっと、そんなキツイ言い方しなくてもいいじゃないの。……知らなかったなら仕方ないわ。これから知っていけばいいんだから、気にしちゃだめよ?」 魔術師のカルラさんが同性でも見惚れる様な微笑みを浮かべて、そっと頭を撫でてくれる。 優しさに甘えたくなるけれど、それでは駄目だ。勇者の言ってることは正しいのだから。
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