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「クリスそっちを頼む!」
一度引いていた魔物が、さっきよりはるかに頻度を増して襲いかかってきた。長時間の戦闘に加え、この悪天候。皆の身体に疲労と傷が着実に増えていく。
そんな中で何とか保っていた均衡は、一つの綻びであっさり崩れた。
「リタあぶねぇっ!!」
「っ!?ホルガぁああ!」
ホルガーさんの足が宙を舞った。
今ここで足を失うこと、その意味が私の意志とは関係なく脳裏に浮かぶ。
最悪の想像がよぎったのは、皆も同じだっただろう。
特にリタさんが感じた絶望は、私達の比ではないはずだった。そのことに気付くのが遅れた。
「…………あ、」
間の抜けた声と。飛び散る血。倒れ込む華奢な身体。最後に見えた顔は、死への恐怖に歪んでいた。
「リタ!!くそっ、おいクリス!」
先に行け。ホルガーさんの目がそう言っていた。
合理的だ。生き残るためにはそれしかない。
分かっている。そんなことは私だって嫌と言う程分かっている。
私達には魔王を倒す義務があるのだ。全滅するのは避けなければならない。
だけど動けなかった。
「……ジーク!悪いが殿を頼む!聖女は来い!」
動けない私の腕を掴んで、勇者が進んでいく。
痣になりそうな強さで握られる腕に、泣きたくなって。泣き喚いたりしないように、唇を噛み締めて必死に耐えた。
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