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「情報とダメージ過多で頭働かないんだけど。ちゃんと説明してくれる?ところで聖女様とクリス兄妹なの?全然似てないね」
ジークさんは笑っているが、地面に寝転んだままな辺り、本当にダメージが深刻なのだろう。
「俺は父親似で聖女は母親似だからな。それよりお前そんなに弱かったか?」
「いやいや、君が強すぎるんだって。僕これでも王国で期待されてる聖騎士だから。……とまぁ、ふざけるのはここまでにして。なんで君が魔王なんてしてるわけ?」
偽ることは許さないと。透き通る青い目が訴える。
それに勇者は小さく笑って、腰に差していた黄金の短剣を自分の胸に突き刺した。
突然すぎて、私もジークさんも反応が遅れた。動けたのは、勇者が仰向けに倒れてからで。
震える足を動かして、勇者へ駆け寄る。
「どうして!?」
「……この短剣、魔王を殺したら自動的に城に戻る魔術がかけられてんだ。昨日あの女が城と連絡とってたし、これが夜までに戻んなかったら、敵がここに押し寄せてくる」
茜色に染まっていく太陽を瞳に映しながら、淡々と話す勇者。
「俺達ハインミュラー家は元々、魔物から国を守る役割を持った辺境伯だったんだ。国直属の騎士団よりも強かったし、国民からも支持されてた。……だからだろうな。俺達は国から目を付けられた。俺達家族は封印されて、一人ずつ封印を解かれては魔王役を強制された。役割を全うしなければ家族を殺すって脅されて」
父親も、兄も、弟も。皆くだらない茶番のせいで死んでしまった。そう呟いた勇者は悲しそうに笑った。
「……この国最悪じゃん」
「本当に最悪だよ。ちなみに侍女は俺と聖女の監視役兼妨害役。カルラ達が殺されたのも、あの女が魔力を使って魔物を操っていたせいだ」
「それ、僕も殺されてなきゃおかしくない?」
「本当ならあの山で殺すつもりだったはずだ。しぶとく生き残ったのは誤算だっただろうよ。……そのおかげで最悪の事態にならなかったから、感謝してる」
その割に容赦なくぶん殴られたけどね、なんて。おどけて言うジークさんと楽しそうに笑う勇者に、目の奥が熱くなる。
話している間にも、勇者の身体からは血が流れ続けていた。
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