barにて

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barにて

*** 「兄を助けてください」  夜の繁華街に一軒の小さなbar『Night 』がある。  地下へと続く階段の先にあるそのbarに、熊谷珠奈(くまたにしゅな)は足を踏み入れていた。  店内はこじんまりとしていて、珠奈が訪れた時に客は一人もいなかった。  珠奈は酒が全く飲めない。  barに来たのは、これが人生で初めてだ。  目的はただ一つ。  この店のオーナーである、砂原夜(すなはらよる)に会うことだった。  だから『Night 』を訪れ、扉を開け、砂原と目が合うと、まっすぐに、早歩きでカウンター席に進み、席に座らず、珠奈は目の前にいる砂原に、物事を直球に言い放つ。  間近で見た砂原は、珠奈の想像していたよりも年齢が幼く、男性にしては可愛らしい顔つきだった。  砂原は自分と同じ二十歳の可能性がある、そう感じた。 「殺人の罪で、兄はまた逮捕されました。刑務所に入るのはこれで三度目です」  店の制服に身を包んだ砂原は、真顔のまま話す珠奈を見た後、目を落とし、グラス拭きながら口を開く。 「殺人を犯した人など救えないですよ。私は弁護士ではありません。しがないbarのたった一人の従業員であり経営者なので、訴えられても困ります。お客様……酔っていらっしゃいますか?」  珠奈は首を振る。 「あなたをここの従業員、経営者だと見込んで頼みに来ているわけではありません。私は知ってます。あなたが……凄腕の除霊師だと」  砂原はグラスを拭く手を止め、静かに顔を上げた。
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