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廃墟にて
***
天井を猛烈に叩く雨音で目覚める。
コンクリートの寒冷な床上で、咲哉は上半身を起こした。
そこは廃墟ビルの一室。
身をすくめたくなるほどの迅雷と同時に、現状を理解した咲哉は、一気に悲観して、感情を抑制できず、床を殴りつけた。
埃っぽい淀んだ空気と、電気のない薄暗い空間。
「また夕立が来たのかよ!」
誰もいない場所で、咲哉の叫びは無情に響く。
咲哉はこの先の展開を知っている。
何故なら廃墟に転送されたのは、これが最初ではないからだ。
だから今あいつが、咲哉の前に立ち、不吉な笑顔を浮かべて咲哉を見下ろしていることも想定済み。
この廃墟にある、大きな水晶玉の前で。
「いるんだろ、死神」
咲哉の声とともに、死神は姿を現す。
「ええ、もちろんですよ」
予想していたとはいえ、死神の姿を見て咲哉は失意に陥る。
「さあ、夕立がやって来ました。この雨が止む十分程度の時間……」
死神は嘲笑ってこう続ける。
「あなたの体、貸してくださいね?」
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