*74* 無垢な夢路をたどる

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「……言ってる意味がわからないよ。母さんは母さんだ」  これ以上すきまなんかありはしないのに、苦しいくらい拘束を強める腕にそっと右手を添え、繰り返す。 「聞いて。あたしはもう、ジュリのお母さんじゃいられない……ジュリだけのお母さんじゃ、いられなくなるの」 「え……」  呆然と声をもらすばかりで、ジュリは身動きひとつしなくなってしまった。 「だから、甘えるなら今のうちだよって話」  そこまで踏み込んでしまえば、後には戻れない。  ぐっと見上げた漆黒の空は、潤んでいた。それでいて、無数の星が瞬いていた。 「……反則じゃない……なんで今……」 「ずっと前から考えてた。ジュリには、ちゃんと話をしたかったの」  本当なら、オリーヴとイザナくんにオーナメントの話を聞いて、勇気をもらったあの日に。 「あぁ、そうか……変に意地張って話を聞かなかったのは、オレか。馬鹿みたい……」  はは……と乾いた笑いが頭上から落ちてきて、右肩へもたれた重みが、震える吐息を引き連れてくる。 「夢じゃないって、思ってもいいのかな……」  答える代わりに、今度はあたしが丸まった背を抱きしめた。思いっきり、痛いくらい。
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