36人が本棚に入れています
本棚に追加
「……言ってる意味がわからないよ。母さんは母さんだ」
これ以上すきまなんかありはしないのに、苦しいくらい拘束を強める腕にそっと右手を添え、繰り返す。
「聞いて。あたしはもう、ジュリのお母さんじゃいられない……ジュリだけのお母さんじゃ、いられなくなるの」
「え……」
呆然と声をもらすばかりで、ジュリは身動きひとつしなくなってしまった。
「だから、甘えるなら今のうちだよって話」
そこまで踏み込んでしまえば、後には戻れない。
ぐっと見上げた漆黒の空は、潤んでいた。それでいて、無数の星が瞬いていた。
「……反則じゃない……なんで今……」
「ずっと前から考えてた。ジュリには、ちゃんと話をしたかったの」
本当なら、オリーヴとイザナくんにオーナメントの話を聞いて、勇気をもらったあの日に。
「あぁ、そうか……変に意地張って話を聞かなかったのは、オレか。馬鹿みたい……」
はは……と乾いた笑いが頭上から落ちてきて、右肩へもたれた重みが、震える吐息を引き連れてくる。
「夢じゃないって、思ってもいいのかな……」
答える代わりに、今度はあたしが丸まった背を抱きしめた。思いっきり、痛いくらい。
最初のコメントを投稿しよう!