*74* 無垢な夢路をたどる

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「エデンに来て、自分のことで精一杯だった。でもみんなと出会って、色んなことを知って、このままじゃダメだって思ったんだ」  ──星の導きとは不思議なものでね。偶然のようで、すべてが必然なんだ。  空を仰がない者の夜に、星は決して流れない。  覚えておいてくれ。見えないのではなく、僕たちが見ようとしていないだけ。  星はいつだって、空で輝いていることを。  本当に大切なことは何かを気づかせてもらったから、あたしはもう、迷わないよ。 「あたし、マザーになる。マザーになって、みんなを守りたい」  重苦しいねずみ色に塗り潰された街を、泣きやませてあげたい。  あの雲の向こうには星があるんだって、思い出してもらいたいの。 「でもあたし独りじゃ絶対に無理だから、ジュリたちに力を貸してもらいたいんだ」  不安定な気候に、荒れた大地、あふれるモンスター……セントへレムの現状は、あたしたちが思う以上に深刻だ。  これから大変なことや辛いこと、危険なことだってあるかもしれない。それでも。 「あたしのそばで、手を握っててくれますか?」  ほんの少しの勇気を、分けてくれますか?  祈りにも似た問い。閉じたまぶたを、ひと呼吸ののち、再び開く。
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