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「オレのわがまま、聞いてくれる?」
「どんな?」
「キス、したい」
「それって……」
「必要なことなんだ。約束する。あなたに闇魔法を使うのは、これっきりにするって」
闇魔法の使用は、少なからずリスクを伴う。だというのに、ジュリは何を成そうとしているのか。そうまでして、この子は何を伝えようとしているのか。
「見てもらいたいものがあるんだ。傷つけてしまうかもしれないけど……これは、オレの中だけに留めておくものではないと思うから」
「ジュリ……うん、わかった」
不安がない、と言えばうそになるけど、怖くはない。ジュリが背負っているものを打ち明けてくれるなら、その覚悟を尊重したいんだ。
「ありがとう。──瞳を閉じていて」
穏やかな声音に誘われて、最後に目にした漆黒の双眸を、まぶたの裏へ刻む。
音もなく瞬く星は、静寂そのものだ。
「──我は光を拒絶する。我は時を拒絶する。此れなるは深淵。過ぎ去りし暗黒の海」
やがて力ある言葉が、白昼の世界へ帳を下ろしゆく。
「歪な鍵穴を解き放ち、示されし夢路を共にゆかん──『イノセント・メア』」
脳裏に反響する声。そっと唇を塞がれる感触。
「ん……」
ぴくりと身じろげば、するりと指を絡め取られて。
「オレの手を、しっかり握っていてね」
呼吸を奪われているのに、明瞭な言葉が脳裏に直接響く。
「さぁ、行こう。オレが生まれた理由──その真実を知るために」
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