*74* 無垢な夢路をたどる

7/7
前へ
/595ページ
次へ
「オレのわがまま、聞いてくれる?」 「どんな?」 「キス、したい」 「それって……」 「必要なことなんだ。約束する。あなたに闇魔法を使うのは、これっきりにするって」  闇魔法の使用は、少なからずリスクを伴う。だというのに、ジュリは何を成そうとしているのか。そうまでして、この子は何を伝えようとしているのか。 「見てもらいたいものがあるんだ。傷つけてしまうかもしれないけど……これは、オレの中だけに留めておくものではないと思うから」 「ジュリ……うん、わかった」  不安がない、と言えばうそになるけど、怖くはない。ジュリが背負っているものを打ち明けてくれるなら、その覚悟を尊重したいんだ。 「ありがとう。──瞳を閉じていて」  穏やかな声音に誘われて、最後に目にした漆黒の双眸を、まぶたの裏へ刻む。  音もなく瞬く星は、静寂そのものだ。 「──我は光を拒絶する。我は時を拒絶する。此れなるは深淵。過ぎ去りし暗黒の海」  やがて力ある言葉が、白昼の世界へ帳を下ろしゆく。 「(いびつ)な鍵穴を解き放ち、示されし夢路を共にゆかん──『イノセント・メア』」  脳裏に反響する声。そっと唇を塞がれる感触。 「ん……」  ぴくりと身じろげば、するりと指を絡め取られて。 「オレの手を、しっかり握っていてね」  呼吸を奪われているのに、明瞭な言葉が脳裏に直接響く。 「さぁ、行こう。オレが生まれた理由──その真実を知るために」
/595ページ

最初のコメントを投稿しよう!

36人が本棚に入れています
本棚に追加