めぐる季節のアプラオス

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 ――凍えてしまいそうだ。  デュッセルドルフの冬は底冷えして……否が応でも僕に現実を突きつけてくる。  ミヤの体温と優しさが、ここにはない。  渡独して3年が経過した。  彼女は僕のことなんて忘れているだろう。    何も言わずにこっちへ来てしまったから……  最短でも5年、こちらで絵画を学ぶために。  ドイツは祖父の家があり、子どもの頃から何度も訪れた地だ。  言語にも問題はなく、クラスも決まっている。  ミヤと出逢ったときには、もうその道は約束されていたのだ。  1ヶ月と少し、体の関係を持って……ある日突然、捨てられた。  ミヤから見たら、そういうことになるだろう。  「好き」だなんて伝えられなかったから。  帰るまで待っていてほしいとは、言えなかった。  何度も抱いておいて……都合の良いことを言っているのも、理解している。  だけど、ミヤの人生を僕がもらうわけにはなかった。  何年待たせてしまうかもわからず、他に好きな人が現れたときの障害にもなりたくはなかった。    ひどい男だったと……早く過去の男になった方が彼女のためになる。  ――いや、本当は忘れてほしくなんかない。  往生際の悪い僕は、気づくとミヤを描いていた。  僕が創造した君は、幸せそうな笑みを浮かべている。  気が、狂ってしまいそうだった。  愛なんて知らなければ良かったと、挫けそうになる夜は幾度とあった。  だから、忙しい日々に没頭して我を忘れた。  ミヤを描いたスケッチブックと、僕の年齢ばかりが重なっていく。  5年を経過する頃に、ようやく諦めの気持ちが芽生え始めた。    恋人がいるかもしれないし、結婚していてもおかしくはない。  それだけの時が流れた。  ミヤと出逢ってから、10年――
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