めぐる季節のアプラオス

3/6
前へ
/6ページ
次へ
「あ、新しい服、ここに置いておくね」  自分の服に手を掛けたら、彼女はそそくさと退出してしまった。  アパートの脱衣場は大柄の僕には狭く、Tシャツを脱ぐときに手が壁に当たった。   「ハ……クシュッ」  身震いが襲い、僕は服を脱ぎ捨てて急いで体を洗い、湯に身を沈めた。    生き返るようだ……  あのままでいたら、本当に風邪を引いてしまったかもしれない。  彼女は、美術館から帰るところだったらしい。  僕も同じ場所へ行っていたと告げたとき、嬉しそうな笑顔を見せてくれた。  印象派が好きだと言っていた。    なるほど、モネの展覧会に赴くはずだと納得した。  そして、帰路で僕を見つけたというわけで。  ここへ来る途中、男物の洋服を見立ててくれた。  とっくに雨は止んでいたけれど、僕たちはそれには触れなかった。  体が熱い。  服を着てバスルームを出ると、涼しい風が吹いてきた。  冷房を入れてくれたようだ。 「ありがとう。おかげで温まったよ」 「そう、良かった」  はにかむ彼女に、胸の奥が焼けるような熱を覚える。 「もう少しここに居てもいい?」    髪を掻き上げながら問うと、彼女は恥ずかしげに小さくうなずいた。 「うん。適当に寛いでて。……私もお風呂入ってくるね」  無防備な言葉に、期待していないと言えば嘘になる。  用意された麦茶を喉に流し込み、僕は背後のベッドへもたれ掛かった。
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加