めぐる季節のアプラオス

6/6
前へ
/6ページ
次へ
 肌にまとわりつく湿気と、照りつける強烈な日差しが不快感を与える。  でも、日本の夏は嫌いじゃない。  彼女と出逢った季節だから。  そして、懐かしいこの公園(ばしょ)も。  あんなに激しく、狂おしい感情を抱いたのは……最初で、最後だったんだ。  あれから様々な人と出会ったけれど、同じような情熱を持てたことはない。    僕には絵を描くことしか残されていなかった。  ミヤに出逢う前と、何も変わらない。  元に戻っただけだ。  ぽつぽつと、雨が目の前を落下していく。  それはすぐに勢いを増した。  慌てふためく人々を観察し、足元で跳ね回る雨粒を眺める。  僕は、夕立を吐き出す空を見上げて目を閉じた。  今は、この世の終わりみたいだ―― 「風邪引いちゃうよ」  僕を責めるように叩いていた雨がなくなり、そっと目を開く。  同時に、懐かしい香りが鼻をかすめた。  まさか……  視線を下げると、そこには彼女の泣き笑いがあった。 「ミヤ……」  何年経っても――君は変わらず美しかった。 「展覧会にあなたの名前を見つけて、もしかしたらって思って」  あんな別れ方をしたのに、僕を忘れないでいてくれたのか……? 「ごめん……僕が君の10年を奪ってしまったんだな?」  置き去りにしたことを許してくれなくても、責めてくれても構わない。   「肖像画を描いてくれたでしょ? それを見て、全部わかったの。私を想ってくれていたのならそれでいいの。だけど……もう、離さないで」  でも、それすらも受け止めて僕の胸に飛び込んでくる。 「ああ、もう離さないよ。今度はちゃんと約束する」  君がいてくれるなら、まだ終わりじゃない。  ミヤの唇をキスでふさぐと、彼女は傘を落として僕の背に両手を回した。  雨と涙が混じり合い、僕たちの頬を伝う。  夕立が、まるで拍手喝采(アプラオス)に聴こえた。
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加