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青空が広がっていた。
ほんの数分前までは。
何の前触れもなく、大きな雨粒が矢継ぎ早に落ちてきた。
慌てて傘を広げる人、ハンカチを被る人、鞄で頭を守る人、大きな木の下へ逃げ込む人……。
突然の夕立に、人々が右往左往している。
その様子を眺めるのにも飽きて、僕はびしょ濡れになった自分を見下ろした。
まあ、いいか。
足元で、地面に着地する雨が形を変えてあちこちに跳ねる様子を眺める。
その動きはなんだか小気味が良くて、創作意欲を掻き立たせてくれた。
雨を表現するのは難しいけど……だからこそ、何度でも挑戦してみたくなる。
僕は、曇天を仰いで雨を受けた。
「風邪引いちゃうよ」
頬を叩く雨がパッタリと止み、閉じていた目を開く。
眼前には晴天のようなスカイブルーが広がっていた。
……いや、これは傘か?
視線を感じて下方へ目を向けると、ショートカットの女性が僕を見上げていた。
どうやら、傘を差し掛けてくれたらしい。
「これ、使って」
そして、白いタオルを僕の手に押しつけた。
「……ありがとう」
心配げな視線を向けてくる彼女に、安心させるように微笑んでみせる。
「こんな雨の中、何してるの?」
と、彼女はホッと息をついた。
「絵を描きたい」
「え?」
もらったタオルで顔を拭くと、彼女は小首をかしげた。
可愛らしい人だ。
年は、僕と同じくらいだろうか。
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