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額の上、左側あたりがズキッと痛む。
窓の外を見ると、街路樹の青々とした葉が、引っ張られるように強い風に翻弄されている。
(あー、こりゃ来るな)
俺はデスクから医者から処方された薬を取り出し1錠飲む。
「えっ、小宮さん、もしかして夕立来ます?」
「8割の確率」
「外に干してるタオル取り込んできます!」
駆け出す彼女を見送る左目の奥がぐずぐずと痛みを訴え始める。
(雨がひどくなりそうだな……営業帰りの山田、間に合えばいいけど)
「間に合いました。タオル、乾いてたし、丁度よかったです」
彼女はタオルのついた洗濯ピンチをロッカーに持っていく。
「そうだ、山田さんそろそろ営業から帰って来る頃だった。念のため伝えとこー」
彼女が社用スマホで山田にメッセージを送ると、俺のところにも「どうせざっと降ってすぐやむだろうから、コーヒーでも飲んで帰るわ」とメッセージが送られてくる。
まあ、降りだす前にいい席確保できたらその方がいいよな。
数分もすると、ゴロゴロと空が鳴り出し、ドーンと遠くで派手に落ちる音がした途端、雨が降りだす。
見る間に強くなっていく雨に、俺の片頭痛も増していく。
「いってぇ……」
夕立、もといゲリラ豪雨の時には使い物にならない男、俺である。
爆発的に気圧が下がると、片頭痛に悩まされるのだ。
ただその分、予想的中率は高いので、営業に向かう人の傘の準備や、洗濯物や外に出してある看板やチラシの雨対応には役立っている。(と思いたい)
(あー気圧の低下と縁が切りたい……)
こめかみのあたりを揉んでいると、すっと冷えた麦茶がデスクに置かれる。
「予防薬、効かなかったみたいですね」
「ああ、本番用の薬飲むわ。麦茶ありがとう」
デスクから、さっきとは別の薬を出してそれを飲む。
片頭痛の薬は飲むタイミングが難しいんだ。
ちゃんと痛くなってからじゃないと効かない。
痛くなりすぎても効かない。
「あんまり痛かったら、そろそろ定時ですし、上がります?」
「いや、多分薬が効くから大丈夫。区切りのいいとこまでやっちゃいたい」
「無理はしないでくださいね」
「サンキュ」
俺の体調に理解のある人間に恵まれてよかったなあとしみじみ思う。
俺のための麦茶があるのも悪くない、と思いながら、グラスに残った麦茶をのみ干すと、グラスを洗いに立ち上がる。
窓の外はあいかわらずの雨だが、雷の音はしなくなっている。
雨がやむのも、薬が効いて俺の片頭痛がおさまるのももうすぐだろう。
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