おやすみ

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 五時間目の途中から雨が降り始めた。私は赤い傘を持っている。赤い傘は霊に向こうの世界に引きずられないらしい。  午後のホームルームも終わって帰る時間になった。星奈が職員室へ行って帰って来た。休みの許可を得たのだという。私たちは下駄箱へ行ってローファーを履いた。  学校の前の通りを左に曲がって、大通りを渡り住宅街へ入る。一軒家の庭に紫陽花が咲いている。水色のものやピンクのもの。紫もあった。星奈が目を細めて言う。 「紫陽花は土の成分で色が変わるんだよ。私は青が好き。スズは外に出さないから紫陽花が見れないね」  そうか。外に出さないのになんで霊が憑いたんだろう。私の勘違いなのかな。それとも外から誰かが連れて来てしまったのだろうか。高齢だったら霊に負けちゃうかな。 「スズは飼って何年経つ?」 「五年だよ。人間でいうと三十六歳。もうおばさんだけど、死ぬには早いよね」  良かった。まだ若い。 「うん、まだ半分も生きてないじゃない」  星奈の家に着いた。白い壁の四角い家。駐車場に軽自動車が停まっている。お母さんがいるのだろう。
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