その子色

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 私が勤めている保育園には、問題児扱いされている子が一人いる。  別に、その子が暴れるとか周囲に迷惑をかけるとかはない。ただ、感性が周りと違いすぎるのだ。  園児達と色んなお遊戯の際、その子だけ特殊な返事をしたり動きをしたりする。  その子の完成の違いは、主に『色』に関することで、とたえば、周りが『青』と認識しているものをその子だけが『青』と思っていない。  だからお絵かきの時などは、同じ物を描かせても、一人だけまったく違う色の絵を描いて、周囲をひたすら戸惑わせるのだ。  でも、仕方がない。だってその子には、世界はその色に見えているのだから。  最初は、どうして空を青色以外で塗ったり、友達がみんな黒色なのかと戸惑った。だけどその子と関わっているうちに、私も、長く忘れていた『世間とは違う色の世界』がまた見えるようになった。  日によって変わる空の色、人の色。その他総ての世界の色。  常識とは違う色の世界。まだ幼かった頃、私の世界も確かにこんな色だった。だけど育つうちに『世間の常識』を覚え、周りに合わせようと努め、やがて世界は決まった色で固定された。  その子はあの日の私と同じ。自分には周りと違う色の世界が見えているというだけの子。  だけどその違いを世間は『問題』と呼び、その子やかつての私を異端として扱った。  …いずれその子も、空は青く、草は緑で、人は肌色をしていると『認識』することだろう。見えなくても、その色で世界を絵描くようになるのだろう。  世界がどう見えていても周りに合わせる。問題視されるよりその方が生きやすい。それを知るだろう。  今は自由に、好き勝手な色で世界を描く。その子の未来は…無理に『普通』になった私だ。 その子色…完
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