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茶色い通り
その場所には、特有の匂いがある。
高校まで歩いて15分。ギリギリまで寝ていたいから、起きるのはだいたい7時50分。一階からは物音がしない。両親はすでに出勤し、弟は部活の朝練で6時には家をでてしまう。
テーブルには少し乾いた目玉焼きとベーコン。用意されたお茶碗にご飯を3分の1よそい、3粒ずつ口へ運ぶ。
学校には、なるべく居たくないんだ。その気持ちが箸を遅らせる。
8時12分。ギリギリに家を出ると、どうしても、その場所を通るしかない。
『茶色い通り』
その場所を、私はそう呼んでいる。
老朽化した建物から流れ出た錆が、アスファルトを赤茶色に染めている。
古い家屋やアパートが取り残されたように左右に10棟ほど並び、人の気配がない。通りの最終地点にあるのが、つぶれた病院。カーテンのない黒い窓が口を開け、こちらを見ている。
暗い窓と目が合わないように、足元だけを見て、小走りに茶色い通りを抜け、やっと肩の力を抜く。
この場所からは、どうしようもなく終わった匂いがしていた。
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