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帰り道
チャイムが鳴る少し前に教室に入り、席に着く。
「息が荒いよぉ。」
後ろの席の沙理が、私の背中をつついた。
「え? 息うるさい? 」
なるべく呼吸を抑え、音が出ないように気を遣った。マスクの中に温かい空気がこもり、余計に息苦しく感じた。周りはみんな灰色の表情。私に興味を示す人はいなかった。
今日、高校になって初めての期末テストが返された。56点。分かってはいたけど、思ったより悪い。周りからもため息が聞こえる。
「今回のテストは簡単にしたんです! 平均70点は取れると思っていました。こんなにやる気のない学年は、この学校に来て初めてです! 」
いつもは陽気な生物の先生が大きめの声で叱り、ぺシャリと手で教卓を鳴らした。
授業のたびに返却されたテストは、クラスの半数が赤点をとり、担任が頭を抱える結果となった。
「これは、私たちだけのせいじゃないよ。」
学校を出て、バス停に向かう道で沙理が言った。
「テストの点のこと?」
沙理が乗るバスが来るまで、私も隣で待った。
「うぅん。1年のやる気がないって話。」
「まぁ……やる気ないね。」
「私たちには、未来がないんだよ。」
「うん?」
「そして、今もない--。」
駅前行きのバスが来ても、沙理は乗らなかった。
「えっ! ? どうした沙理、どこへ行く? 」
沙理は、バス停を通りすぎ真っ直ぐ進んでいた。
交差点立ち止まった沙理が、右、左と指差し首をかしげた、
「雫ん家。近いんでしょ?」
私は、沙理を小さく睨みながら、右を指差した。同じクラスになってから、私は彼女に何度も振り回されている。
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