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 高校生になって、まだ友達を家に呼んだことがない。なんとなく遊んじゃいけない空気もあるし、遊びたい気持ちにもなれなかった。 「ちょっと待ってて。部屋片付けてくる。」 「はぁーい。」  玄関に沙理(さり)を待たせ、急いで階段を登ると、部屋の机に散らばった原稿をまとめた。Gペンやインクは、お菓子の空き缶にしまう。   「隠さないで。」  いつの間にか部屋に入った沙理が、私の手元を見ている。 「なん……で? 待っててっ言ったのに。」 「見たかったから。(しずく)の部屋。」 「謝らないんだ?」  沙理の図々しさにムッとした。 「うん。ありのままの雫が知りたい。」 「他人(ひと)に、ありのまま全部見せなくていいと思う。」 「ふん、ま、そうかもね。」  沙理は不満そうに、ペタンとカーペットに座った。  缶の箱にインクやGペンをしまい、原稿は机の引き出しに入れ、鍵を閉めた。 「ジュース取ってくる。」  沙理が、あちこち覗いたりしないか不安になった。あの子ならやりかねない。  予想に反して、沙理はさっき座った位置で身動きせずにいた。 「オレンジジュースしかないけどいい?」 「うん。ありがと。」  2人きりになるのは初めてで、気まずかった。音楽でも流せばよかった。   「……雫、漫画描くんだね。知らなかった。隠さなくてもいいのに。すごいことだよ。」  オレンジジュースに入れた氷を指で押し、浮かべたり沈めたりしている。 「恥ずかしいよ。下手っていうのもあるけど、自分の内側見られんのが嫌っていうか。えーと、静かだから音楽かけるね。」  動画サイトを検索し、無難なJPOPを流す。 「雫は、漫画家とか目指してんの?」 「えー、うーん、趣味で。漫画家はなれたらいいかもくらい。」 「沙理は? 何かないの? 趣味とか。」   「ううん。何もない。だから雫がうらやましい。雫だけじゃなく、やりたいことある人みんな、すっごく恨めしい。」 「沙理、メイク得意でしょ。さりげないやつ。」 「学校だから、さりげなくしているだけ。女子高生になったら、放課後にメイクし直して、渋谷行きたかったのに!」 「ここから渋谷は遠いって。」 「勉強好きな子はさ、大学行ったり目標あるから勉強するよ。だけど私ら勉強嫌いでしょ? 部活も強い学校じゃないしさ。放課後も遊べない、夏休みもプール行けないんじゃあ、高校の楽しみ何もない。」 「うん。私もアニメに出てくる女子高生に、なりたかったかなぁ。」 「……なる? 女子高生。」  沙理が、メイク道具をテーブルにバラバラとのせ、私の顔を覗きこんだ。
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