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9. 逃亡
「アニー様、ロッテ様。これ以上この家に居ても、お嬢様方は、幸せにはなれません。どうか私と共に、隣国へ逃げてくださいませ」
「けれども、お母様が…… わたくしたちが居なくなれば、きっと泣いて寂しがられるでしょう」
「たまにしか顔見せにこられないじゃないですか! それも、お嬢様方を嘲るようなことばかり言って!」
「お母様はお忙しいのよ。それに、家族なのだから、気安くなんでも言えると思っておられるのですよ」
説得は難航した。
頑固なアニー様とロッテ様……。
お嬢様方は、このような目に遭ってもなお、母親の愛を信じているのだ ―― いや。
このような目に遭ったから、なおさら、ではないのか?
足と目を失ったのが、母親に利用された結果だと思い知れば…… これまでの人生が、ただ虚しくなるだけ。
失敗したかもしれないが、母親には、少なくとも愛はあった。
そう信じることだけが、彼女らの拠り所なのではないだろうか?
―― もしそうなら、お嬢様方が、この地下室から逃げようと決意することなど、一生無いに違いない。
すっかり、とらわれてしまっているのだから。
本人がそれでいいなら、いいじゃないか…… とは、私は決して思わない。
彼女らは、正しい幸せも、正しい愛も知らないだけだ。与えられたことが、なかったから。
けれど、知らないままでいるのは、不幸なことに違いない。
私は、お嬢様方を無理に連れ出すことを決意し、ある日、それを実行した。
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