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10. その後
脱出後、帰りついた隣国で、アニーお嬢様とロッテお嬢様は、王太子とその弟君の婚約者となった。
彼らは私の報告にいたく心を動かされ、 「薄幸の心優しい姫君を救ってこそ男のロマン」 と婚約を決意したらしい。
こっちもバカ王子に負けず劣らずの脳内お花畑 ―― なわけでは、実はない。
なぜなら、隣国はこれにより、バカ王子とその一族を攻撃する大義名分 ―― 王太子の婚約者を侮辱し、迫害したことに対する報復、という ―― を得たからだ。
―― もっとも、そんな理由だけでの婚約など、あり得ない。お嬢様方は愛されて、幸せにならなければ。
私は夜分、こっそり王太子と弟君の寝室に忍び込み、彼らに終生お嬢様方を大切にする意思があることを確認し、ついでに 『約束違えたら、急病で即死するかも』 と脅しておいた。
―― もしも、王太子や弟君が単なる政略的な意図で婚約したのならば、私の行動は罪に問われ、今頃は処刑されていたことだろう。
しかし、私はまだ生きている。
それこそが、彼らの想いの証ではないだろうか。
その後、大義名分を掲げて戦争をしかけてきた隣国に、バカ王子一族は、あっという間に破れた。
身から出たサビで財政・人材ともにボロボロだったせいだ。
王子一族はもちろんのこと、血縁者や関係が深い者も、全員、処刑された。
エラも、ママ母もだ。
貿易商だった父親は、死刑は免れたが、爵位を取り上げられ、300年かけても払えぬほどの莫大な慰謝料を負わされた。
もと家族の運命に、お嬢様方はそれは嘆き悲しんだ。
その心根の優しさは、夫となった王太子と弟君にも響いたらしい。彼らは私に約束した以上に、お嬢様方を大切に ―― 溺愛と言って良いほど大切にしてくれた。
そして、アニー様にやんちゃな王子様が、ロッテ様にかわいらしいお姫様がお生まれになる頃には、お嬢様方の心の傷はかなり癒えてきていたのだろう。
おふたりのお顔には、自然な笑みが浮かぶようになっていた。
さらに5年ほど経った、ある美しい夏の日。
庭の木陰で子どもたちを遊ばせている時に、アニー様がふと、おっしゃった。
「最近は、無理しなくても時々、幸せだな、と思えるの」
ロッテ様がうなずいた。
「きっと今が、本当の幸せ、なのでしょうね」
庭には、子どもたちの鬼ごっこの声が、のどかに響いていた。
(了)
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