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2. 灰かむりのエラ
この家には、もともと、エラというお嬢様がいた (お嬢様だが、様づけで呼びたくないので呼び捨てだ) 。
亡くなった前妻の娘である。
父親である貿易商は、常に仕事が忙しく、ほぼ家を空けていたためもあり、エラは寂しい少女時代を過ごした ―― そのせいだろうか。
表面は優しく美しいが、物凄く底意地の悪い娘に育ってしまった。
使用人の些細な失敗 (水をこぼしたとか、髪をブラッシングする時にうっかり引っ張ってしまったとか) にも目くじらをたて、鞭打たせるような。
使用人が罰されるのを見物するときの、彼女の嬉しそうな顔といったら…… ぞっとする。
たまに会う父親の前では完璧に良い子ぶるので、父親も見抜けなかったのではないだろうか。
しかし、彼女の天下は長く続かなかった。
父親の再婚である。
2人の娘 (アニー様とロッテ様だ) を引き連れて後妻に入ったママ母 ―― 名前を呼ぶのもイヤなので、これでいくことにする ―― は、エラに輪をかけて性格の悪い女だった。
エラと同じく、夫の前では良い母親ぶるが、本質は支配欲に満ちた高圧的な女王様。
その理不尽な性格は、娘たちに対して遺憾なく発揮されていた。
まず、ママ母はエラの存在を決して許しはしなかった。
ボロボロの服を着せ、1日中家事をさせた。寝具も取り上げられたから、寒さに負けたエラはついに、暖炉の灰の中で眠るようになった。
いつ見ても灰にまみれるようになったエラを、ママ母は蔑んで 「灰かむりのエラ」 と呼ぶようになった。
それまでエラに苛められてきた使用人たちは大いに溜飲を下げ、ひそかに 「ざまぁ」 と囁きあったものだが……
私はさほど、喜べなかった。
実質は、彼女よりももっと性質の悪い野良猫が入ってきたような、ものなのだから。
ママ母はエラを迫害する一方で、ふたりの娘たちをも、なかなか酷い目に遭わせていた。
ひとことで言ってしまうなら、つまり。
―― 彼女らは、イヤイヤ、迫害に協力させられていたのだ。
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