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3. エラの義姉たち
エラとこの国のバカ王子との恋物語を知っている人は、義姉たち ―― アニー様とロッテ様 ―― を、『エラを迫害した強欲な悪女』 と悪し様に罵ることが多いが、事実は少し違う。
ふたりは、ママ母にエラの迫害を強要されていたのだ。
エラに1日に3つ以上の意地悪をすること、というノルマが課されており、ノルマが達成できなかった場合は、人目のない地下室でひそかに罰を受けていた。
罰を受けるのがいやでエラを迫害するなんて、結局は我が身かわいさの自己中心ではないか ―― もし、そんなことを言う人がいたら、私はその人の胸ぐら掴んでこう問いたい。
あなたが同じ立場でも、そう言えましたか? と。
ちょっとした意地悪 ―― 怒鳴りつけたり、わざと足をひっかけたり ―― で、実の母から鞭打たれる恐怖から、逃れられるのだ。
特に立派なわけではない、普通の若い娘ならば…… 罪悪感を感じつつも、母親に従ってしまうのではないだろうか。
それは確かに罪かもしれない。
だが、あんな目に遭わなければならないほどの、罪だったのだろうか?
ママ母がふたりに言うことは大体、決まっていた。
「言うとおりにしないと、追い出してしまうよ」
「言うとおりにしておけば、幸せになれるから」
吐き気がするような 『アメとムチ』 発言だったが、アニー様もロッテ様も、黙ってママ母に従っていた。
それも仕方のないことだったのだろう。
何しろ彼女らは、物心つく前から、同じ女による同じ教育を受け続けてきたのだから。
おそらくは 『母親に従うことが人生における最重要事項』 とでも、刷り込まれていたに違いない。
それでもお嬢様方は、根っこのほうで優しい気持ちを忘れてはいなかった。
アニー様とロッテ様が、ママ母に虐げられても持ち続けていた、親切心 ―― それはエラが 『舞踏会に行きたい』 と言い出した時に、はじめて、発揮されたのだ。
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