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4. バカ王子
エラが行きたがった舞踏会は、バカ王子の嫁選びのためのものだった。
私が最初から 『バカ』 とつけて王子を呼ぶ理由 ―― それは、このつまらないワガママに起因する。
王族というのは、崇められ最高の贅沢を許されるかわりに、国の奴隷とならなければならない立場である。
王子の結婚は、最も国益となる相手と、がセオリーだ。
なのにこの王子、 『政略で決められた相手はイヤだ』 とゴネてゴネてゴネまくって、ついには、嫁選びの舞踏会なんていう噴飯もののイベントを開催させてしまったのである。まさに、国費の無駄遣い。
(もちろん隣国には、諜報部員としてしっかりと報告した。)
バカ、以外に呼びようがあるだろうか。ないよね。
この舞踏会の招待状が届いた時、アニー様とロッテ様は顔を見合わせて 「選ばれたくない」 と言い合った。
実の母親に虐げられてきた彼女らの思考は、一般よりひねくれ気味だ。他人を信じられない、という点において。
「脳内お花畑王子……」
「もしウッカリ選ばれたら、その後の苦労が見えますよね……」
これだけしっかり毒舌を叩けるアニー様とロッテ様が、どうして母親だけには黙って虐げられ続けてしまうのか……
血のつながりって、ある意味こわい。
ともかくも、ふたりは相談のあげく、こう決めた。
「エラをコッソリ応援してあげましょう」
「お母様にバレないように、ね」
―― 純粋な優しさからくる決定ではなかったかもしれないが、今のエラにとって、この家の環境が良くないのは確かである。
義妹が舞踏会に憧れるのを、ひそかに後押しようとする義姉たちは…… やはり優しい、と私は思うのだ。
だって、もしママ母にバレたら大変なことになるのは、目に見えているのだから。
―― しかし、この時の彼女らの決定が、後の悲劇のもととなったのである。
そのことを考えるたび、いまだに私は、後悔の念に苛まれてしまう。
―― なぜ、あの時お止めしなかったのだろう、と。
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