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5. 舞踏会
舞踏会の当日。
エラのふたりの義姉たちは、いつにも増して意地悪だった。
―― エラへの協力が、母親にバレてはいけないからだ。
「エラ、お仕事よ! 全部拾いなさい!」
アニーお嬢様は、暖炉の灰に豆をぶちまけ、高笑いした。
ロッテお嬢様は、エラを散々怒鳴りつけながら舞踏会のための身支度に協力させた上で、エラを豆入りの灰の中に突き飛ばした。
「お前には、そこがお似合いよ!」
娘たちの様子を、ママ母は満足げに眺めていた。
ママ母とお嬢様方が舞踏会に出掛けた後は…… いよいよ、私の出番。ミッション開始だ。
実は、私は前もって、アニー様とロッテ様に、エラへの協力をお願いされていた。
エラのことは嫌いだが、お嬢様方ふたりの依頼となれば、仕方がない。
あらかじめ、ふたりから渡されていた宝石を換金して使用人全員を買収・口止めし、残りをエラのドレス代にあてた。
そして、使用人総出で、暖炉の豆の回収とエラのドレスの着付けをし、エラを馬車で舞踏会へ運んだのだった。
―― ここまでしてもエラからは 「ありがとう」 の一言もなく、それどころか逆に、使用人の普段の態度の悪さに文句をつけてきたのには…… 驚き、というよりほかないが。
ともかくも、ミッション完遂。
バカ王子は舞踏会で着飾ったエラをいたく気に入り、片時も離さず踊り続けたという。
「良かった…… わたくしじゃなくて」
帰宅したアニー様とロッテ様はこう、口々に言った。
「三曲以上続けて同じ方と踊るのはマナー違反ですのに、王子ったら、何のお気遣いもなくて」
「あの子ひそかに、皆様から嘲笑されていましたね…… 困ったこと」
「原因は王子ですのに…… エラが、かわいそうです」
「これから、陰湿な令嬢方から意地悪されるでしょうね」
「…… まぁ、エラは意外としぶといから、きっと耐えてくれるものと……」
「ええ。わたくしたちは、エラを応援してあげましょう」
義姉ふたりがそんな話をしていたのは、エラには伝わっていなかった、としか考えられない。
彼女は、王子に気に入られて有頂天になったと同時に…… なにやら、したたかな計算を巡らせたらしかった。
すなわち。
訊かれても名乗らず、靴片方だけ忘れる、という荒業に出たのだ。
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