6. エラの策略

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6. エラの策略

 貿易商を営む裕福な子爵家の娘とはいえ、通常は下位貴族と王族との婚姻は成り立たない。  もし仮に、バカ王子の一存で婚約が決まったとしても、どこからか反対派がわいて出て覆えされることも、ありうる。  そうなった場合に、娘の側に残るのは傷だけだ。  それよりは、王子の本気度を試すと同時に、『靴の合う娘探し』 という国の一大プロジェクトにしてしまうことで、誰も反対できぬようにする……  舞踏会にて、エラは瞬時にこれだけの計算を巡らせ、靴を片方、置いてきたのである。  それだけでは、なかった。  靴を持った使いがやってきた時、彼女はママ母にしか聞こえぬように、こう呟いたのだ。 「足を切ってしまえば、入るでしょうに。王妃になれば、足なんか要らないもの」  いや、あのね?  いくら靴に足が入ったって、顔見たら違うってバレるだろうに。三歳児でもわかる論理だ。  ―――― だが、ママ母はすっかり、その気になってしまった。  そういえば最近アヘンにハマってたんだっけ、この人 (しまった)。  最初は、アニー様だ。  私は、必死でママ母を止めた。 「おやめください、奥様!」 「ええい、おどき! 足の指さえ切れば、アニーは幸せになれるのよ!?」 「どきません!」  ママ母は甲高い声で護衛を呼び、私をとらえさせた。 ―― 私は諜報部員だが、殊更に鍛えているわけではない。  『普通のメイド』 として周囲の油断を誘うためには、筋肉など余分につけられないからだ。  得意なのは気配を消すことと、脱出技、それに毒の扱い程度で、体術はさほどでもない。  従って、屈強な男たちに取り押さえられると、もうどうしようもなかった。  ママ母は、私の喉に刃をつきつけ、狂気じみた笑みを浮かべた。 「では、まずお前を殺そう。代わりのメイドなどいくらでも、いるものね!」  アニー様の顔色が変わった。 「お母様。わたくし…… 足を切ります。だから、どうか、メイドを殺すだなんて、おっしゃらないで」 「いけません、アニー様!」 「いいえ、いいの。わたくしは…… お母様に喜んでもらえれば、それで」 「おやめください!」  アニー様は美しく微笑むと、自らの手で、真珠のような足指をひとつ残らず、斬り落とした。  次は、ロッテ様だった。
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