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7. 諜報部員の決意
アニー様は、消毒と血止めを兼ねて両足の傷口を焼かれ、痛みをこらえながら、王家の馬車に乗って行かれた。
そして、戻っては、こられなかった。
王子の想い人ではなかった上に、足の指を切っていることがばれ、王族を騙した罪 ―― 王族不敬罪 ―― で、そのまま、とらえられてしまったのだ。
カカトを斬り落として例の靴を履いた、ロッテ様も同様である。
私はふたりをお助けしようと、こっそり王城の地下牢に忍び込み…… ふたりともに、脱出を拒絶された。
―― 今は、真の婚約者と認められたエラが取りなしてくれているから、脱出しなくても、死にはしない。
罰は受けるだろうが、エラの実家に関係することであるから、罪は公表されない見通しだ。
しかし、もしここで、ふたりが脱出してしまえば、義姉の罪が公表されてしまい、エラも実家の子爵家も、立場が危うくなるだろう……
そう主張するお嬢様方に、私は必死で食い下がった。
「家名や家族が、なんだというのですか!
お嬢様方をワナに嵌めたエラ、お嬢様方を我欲のために利用して見捨てた母親、全く家に寄りつかない義理の父親……!
皆、どうなったって、いいじゃないですか!
全部捨てておしまいになってくださいよ……!」
「そういうわけには、参りません…… わたくしたちも、エラをいじめたのですから。罪滅ぼしのためにも、エラには幸せになってもらいたいのです」
「それに…… わたくしはまだ、諦めていませんの。いつか、家族みんなで仲良く、なにも含むところなく、笑いあえる日が来るのを……」
「アニーお嬢様…… ロッテお嬢様……」
おさえようとしても、どうしても涙が出てきてしまう。
―――― こんなにも気高く、清らかな志を持ちながら、そのために、どうしようもなく愚かな選択をされる、お嬢様方。
家族が仲良く笑いあえる時など、この家には決して、やって来はしない。
はたから見れば、明白なのだけれど……
彼女らの美しい夢を無残に破り捨てるのが、果たして正しいことなのか、当時の私には、わからなかった。
そして、迷っているうちに、エラとバカ王子の結婚式の日がやってきて……
アニー様とロッテ様は、王族不敬罪の罰として密かに目玉をくりぬかれたのち、恩赦を受けて、自邸に戻ってきたのだった。
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