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1. メイドX
「今度こそ、家を出ましょう」
自邸の地下室に軟禁されているお嬢様姉妹に、私は懸命に説得をしていた。
「アニー様、ロッテ様。これ以上この家に居ても、お嬢様方は、幸せにはなれません。どうか私と共に、隣国へ逃げてくださいませ」
私は隣国からこの国に、とある裕福な貿易商のメイドとして潜入している諜報部員だ。名前は…… Xとでも呼んでもらおう。
メイドとしての仕事を淡々とこなしながら、この国の内情を事細かに調べ上げ、隣国に伝える…… 諜報部員としてのこの仕事に、本来、私情は禁物。
だが私はどうしても、このお嬢様ふたりの境遇に、怒りを禁じ得なかった。
ふたりの顔の、以前は美しい緑の瞳があった場所は今、白い包帯が巻かれている。
あの女の結婚式の日に、罰として、両目をくりぬかれたからだ。
ふたりとも、まだ若いのに老人のように足をひきずり、杖が手放せない身となった。
それも、歩けるのはほんの少しの距離だけ。ふたりの両足は、ほんの少し地面を踏むだけで、悲鳴をあげてしまうのだ。
アニー様には両足の指が、ロッテ様にはかかとが…… それぞれ、ない。
―― お嬢様方からそれを奪ったのは、実の母である、この家の奥様だった。
―― 全ては、ふたりの母親が再婚し、この家にやってきた時から、始まった。
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