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9.一本の電話
9.一本の電話
その後、富浜署の電話が鳴った。
電話は捜査本部のある会議室に転送された。
私は高橋だ。
記者会見の様子を見せてもらった。
私は、3人の社員が保険金目当てに殺されていることを知り告発しようとしたが、社長、人事課長、山下に地下室で暴行を受け、恋人のひろみも襲われてしまった。
社長は、人事課長と、山下に俺たちを殺害するように言った。
俺が気づくと、俺とひろみの乗った車は、すでに海中だった。
ひろみはすでに亡くなっていた。俺は死ぬのだと思った。
その時、男の声がした。
「お前は死ぬ。助けてほしいなら俺の言うことを聞け」
幻聴だと思った。すでに車内は満水だったからだ。
すでに死んでいるのだと思った。
「ああ、なんでも言うことを聞く」
俺はそう言ってしまったのだ。
気づくと埠頭の岸にいた。
時計を見ると午前3時だった。
海に飛び込んでひろみを探そうとしたが潮の流れと透明度が悪くて深く潜れなかった。
それから男の夢を見るようになった。
俺は男の夢はひろみを亡くしたショックと社会から抹殺された絶望感、生きていると殺害される恐怖が原因かと思った。だから精神内科にも通った。
男は夢に何度も現れた。
男は山田だった。
山田は墓を暴き、骨を食えという。
俺は逆らえなかった。
骨を食らうと不思議と力がみなぎった。
俺は、魔力を得たのだと思った。だから、墓地で、水道の水をお湯に変えてみた。
魔力は本物だった。
念じると、相手の目や、頭の中を沸騰させることもできる。
直接手を触れなくとも相手を倒すこともできる。
山田は骨を食わせ、俺を操ろうとした。
今井イネが大正時代に周囲から蔑まれ、3人の荒くれ者に暴行されても誰一人助けなかった。
だから今井イネは山田を使って、3人の親族を殺し富浜をふん尿の海にして60万人を溺死させようとしたのだ。
だが、ASS放送の銃撃戦でイネは倒れ、怒りの念を山田に託した。
俺の中に山田の怨霊が棲みついている。
おれは山田から霊力を得たが、富浜をふん尿の海にするつもりはない。
私は善良な市民に危害を与えるつもりはない。
山田の怒りの念はイネの借り物、だから俺は従うつもりはない。
山田の霊力で、俺は、俺とひろみを殺した、社長、人事課長、山下に復讐することはできた。
だが、事件が終わったわけではない。
世の中は裁けない悪があふれている。
だから俺はこれからも巨悪を処刑していく。
俺はいちど死んだのだ。だから、俺を止めることはできない。
以上だ。
「待って」
美子が受話器を取った。
「あなた山田をコントロールしていると言えるの。山田はあなたより上手かもしれない。今井イネの怨念を受け継いだのよ。きっとあなたに富浜をふん尿の海にしろと要求するわ」
「いまでも山田が俺の頭の中で囁いている。だが、俺の意識は変わっていない」
「それでも操られたら」
「その時は自分を始末するさ」
「あなたは自分は死んでいると言った。死んだ人間をどうやって始末するの」
「その時は俺を火葬し、電磁棒の強力な地場で骨粉にすればいい」
「悪は存在する。だから警察はそれと戦っている。法の裁きを受けさせる。あなたがしようとしていることは私刑リンチだわ。」
「もう警察が悪を退治するのを待っていられないんだ。国の上層部まで侵されている」
「あなたの力が暴走し一般市民が傷つくかもしれない。もう一度考え直して」
「見解の相違だな。また会おう」
電話は切れた。
「盗聴は? 発信場所は?」
美子は聞いた。
「だめです。携帯電話でも固定電話でもありません」
「どういうこと」
「高橋は直接富浜署の電話回線に電磁的に繋いだようです」
「高橋の脳波が増幅されて電話に繋いだということ」
美子は驚きを隠せなかった。
1時間、科捜研、IT捜査官が高橋の通信元を調べたが無駄だった。
有馬管理官は署員に向かって言った。
「高橋を総力を上げて逮捕する。
3人の男たちは、社員3人を保険金目当てで殺害し、それを告発しようとした、高橋の恋人を殺害した。
その経緯を考慮しても、私刑は許されない。
復讐が許される社会にしてはいけない。
高橋は自分の力を過信している。やがてその力は制御できなくなるだろう。
恣意的に霊力を使い、善良な市民が巻き込まれる事件も発生するだろう。
高橋を逮捕できなければ、警察の威信は地に落ち、社会は混乱して無法社会になってしまう。
高橋の名を語った犯罪、模造犯も現れるかもしれない。
我々一人一人の力は微力がだ、総力を上げて、高橋浩二を逮捕する。
もう一度言う、高橋浩二を総力を挙げて逮捕する!」
有馬管理官は檄を飛ばした。
「青木刑事、法眼に再度協力要請だ。頼んだぞ」
美子は口を強く結んで頷いた。
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