深海魚とおやすみ

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ホームセンターまで車を走らせた。 重量コンクリートブロックをいくつかと砂利を買った。 リュックサックにブロックを入れる。隙間を埋めるように丁寧に砂利を詰めていく。 彼女にリュックサックを背負わせる。むしろ、意識のないぐったりした身体をリュックに取り付けると言ったほうが合っていた。両腕をショルダーハーネスに通して、胸のチェストストラップと腰のベルトを締めてリュックと身体を固定する。 支度を整え、車の後部座席からスライド扉を開けると潮風が吹き込んで来た。 白みはじめた空に朝を感じる。人気のない岸壁には打ち寄せる波の音が響いている。 彼女を海へ送り出す。 重しを背負った身体はみるみる海中に引き込まれていく。 大きな白い気泡がいくつも上がった。髪が海藻のようにうねっている。両目が大きく見開かれている気がした。大量の空気の泡が彼女の口から吐き出される。両手と両足を激しく動かしてもがいている。 何かを訴えるような彼女の形相を、ぼくは岸壁の縁から静かに見下ろしていた。 この湾はすり鉢状になっていて、斜面を滑り落ちるように、やがて深海に辿りつく。 光の届かない、暗くて寒い海の奥。 そこに暮らす生き物たちを間近で見られる。触れることも出来る。新種を見つけて自分の名前を付けても良い。研究者でも知らない世界が目の前に広がっているかも知れない。 分厚い硝子はない。人の姿も話し声もしない。閉館時間もない。 きみだけの水族館へ連れて行ってあげる。 これが、ぼくがしてやれる最善だった。 打ち寄せる波が海面を揺らして、深く深く沈んでいく姿は朧げになっていく。 朝日の温もりを帯びた潮風に吹かれながら、出掛けて行くきみをそっと見送った。
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