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いよいよ為す術もなく、ベッドに戻ってへたり込んだ。
昨晩は就寝が遅かったのでスマホの充電も完了しておらず、このまま電灯代わりにするのは心許ない。懐中電灯ぐらい用意しておけばよかった。
そうだ、ランタン! いつかのキャンプで使った野外用のランタンが押し入れにあったはずだ。あれなら電池式だからつくのではないか。
ベッドを降りて、押し入れまで駆け寄った。
押し入れの開き戸も開かなくなっているんじゃないかと心配したけれど、めいっぱい引いてみたらどうにか開けることができた。
安堵するのはまだ早い。ずいぶん前に仕舞ったきりのランタンがどこにあるのか見つけなくてはならない。
覚悟を決めて押し入れに体を入れたわたしはすぐに、異常事態に気が付いた。
目線の先には、ランタンが置かれていた。電源を切って箱に仕舞ってあったはずなのに、箱から出されているばかりか、既に光が灯っている。
その隣にはご丁寧に、理沙からの誕生日プレゼントと入れ替えでお役御免になった、古い三面鏡が立てられていた。
ランタンの少し黄色っぽい光は、角度のついた三枚の鏡で反射され、押し入れ全体を明るく染め上げていた。
自分の押し入れの中の光景なのに、目の前の状態にはまったく心当たりがなかった。
仄明るい押し入れを前に思考停止し、呆気にとられるわたしを現実に引き戻すように、収まっていた揺れがまた始まった。
振り返って部屋を見渡すと、さっきは寝ていたので気付かなかったが、天井から木屑や砂ぼこりのようなものが、もうもうと降りてきているのが暗い中でもわかった。
「大変、余震が始まっちゃった! ほら、早く入って」
背を向けていた押し入れの奥から、聞こえるはずのない女性の声が聞こえてきたのはそのときだった。
信じがたい事態に凍り付くわたしに、
「そっちは直に崩れちゃうよ、急いで!」と正体不明の声が急かしてくる。
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