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 寝込みを大地震に襲われ、退路を断たれ、押し入れには出した覚えのないランタンが光り、挙句の果てには、見知らぬ人間が自分の家の押し入れに入っている。  ここに至って、わたしの頭は論理を追求することを諦めた。  内部に詰まった物を掻き分け、ふらふらと押し入れの中へとわたしは身を寄せた。 「すぐ戸を閉めて。中に粉塵(ふんじん)が入ってきちゃう」  声はなおも聞こえてくるが、不思議なことにその声の主は見えない。  指示されるままに開き戸を、内側の突起を指でつまんで閉めると、物であふれかえった押し入れの中央で、ランタンの光が(またた)いた。  この押し入れ、こんなに広かっただろうか。  面食らっているわたしのすぐそばで、「危なかったね」という声が響いた。わけもわからずわたしは尋ねてみる。 「だれなの? ここ、わたしの家の押し入れなんだけど……」 「そうね、これはあなたの押し入れ。それであって、私の押し入れでもあるんだけどね」  言葉の意味を理解できないわたしに、声はさらに畳みかけてくる。 「今までずっとシェアしてきたのに、同時に居合わせるのは初めてね。まぁお互い、姿は見えないわけだけど」 「シェア?」 「そうよ。あなたが入居してきた二年前から、押し入れを共有してきたの。 あなたの前にシェアしていた子が部屋を引き払ってから、きっかりひとりぶんの押し入れだと狭くて、不便してたから大歓迎だったのよ」  声の主は「押し入れはだれかとシェアすることで、使える空間や機能が相乗効果で増えていくんだから」とどこか自慢げに言った。  そんな馬鹿な、と思いながらも一方で、そうだったのかと納得しはじめている自分がいた。  忙しい日々の中で深く考えてこなかったけれど、いくら広さが決め手で契約した部屋の押し入れとは言え、無尽蔵(むじんぞう)が過ぎるという疑念はあったのだ。  どう考えても、隣の部屋の敷地まで占拠しているとしか思えないほどに。  この押し入れの向こうに、どこかで他のだれかが使っている、別の押し入れが繋がっていたのだとしたら――。
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