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そのとき、開き戸の向こうのリビングから、とんでもない地響きが伝わってきた。
ついに余震で天井か壁かなにかが崩れてきたようだった。すんでのところで家の崩壊に巻き込まれずに助かったらしい。
「あらら、間一髪だったわね。この押し入れは大丈夫よ。
もともと銀行の金庫だったものをリノベーションしていて、耐震耐火の設計なんだから。通風孔もあるからご心配なく」
そういえばこの押し入れの中では揺れをあまり感じないみたいだ。
うちの物件が元金庫というのは聞いたことがないが、シェアしているという相手の押し入れの話だろうか。
それなら、わたしが今いるこの押し入れも、相乗効果とやらで頑丈に変わっているのかもしれない。
わたしがあれこれ思案を巡らせていることを姿の見えない相手が知るわけもなく、さっきわたしが辿り着きかけた絡繰りを、女性の声が明かしていく。
「興味本位で私物をいじって、あなたの前の子みたいに気味悪がって契約解消されても困るし、普段はプライバシーを尊重してきたつもりよ。
だけど半年前の大水害のときは、あなたが用意してくれた長靴があって助かったわ」
そうか、やっぱり長靴は使われていたのだ。それも、わたしではなく別のだれかの窮地を救っていた。
ようやく事情が掴めてきたわたしは、こちらからも会話を試みた。
「押し入れをシェアしはじめたことにも気付かなかったわたしを、助けてくれてありがとうございました。あなたはどこのどなたですか?」
「名前はお互いに聞かないでおきましょう。押し入れってプライバシーの宝庫だし。私がいるのはさっきも言ったけど、去年、大水害の被害が激しかったところよ」
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