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 それはわたしが住んでいる街からはずいぶんと離れた、ふたつ隣の県の郊外だった。  今回の地震は広域に及んでいて、そちらの方も被害は甚大(じんだい)なようだ。  どういうマッチングで、わたしがこの人のシェアの相手に選ばれたのかは、彼女にもわからないのだと言った。 「たぶん、ちゃんと整理整頓をするような正しい人たちの家では、こんなナンセンスなことは起こらないと思うの。 ファンタジーは無駄の結集の果てにあるのね。私もあなたも、ものぐさだもの」  思わずふたりで顔を見合わせて笑い合ったような錯覚を覚え、気持ちが落ち着いてきた。  がらくたばかりの押し入れだけど、ここには確かにわたしと同じ(たぐ)いの人間がいるらしい。 「これからどうしたらいいんですかね。外は大変なことになってそうだし」 「あなたと私で備蓄した食料はたくさんあるし、私が買い置きしておいた携帯トイレもあるから、当面は籠城(ろうじょう)ね。 外の世界が落ち着いて、助けが来るまで待ちましょうか」 「時間つぶしなら任せてください。わたしが毎日積み重ねてきた、がらくたの寄せ集めも、こんなときならちょっとした娯楽にはなるはず」 「あら、それなら私も負けてないわよ」  緊急事態の只中(ただなか)で、こうして押し入れシェアが始まった。というか知らぬ間に始まっていたらしい。  物に(おぼ)れているも同然だったわたしは、一転、物から水を得た魚のように生き延びた。  無駄が()がれ、簡潔になりすぎた世界で、わたしたちはまだまだしぶとく生きていく。  普段は不要な物たちこそ、いざというときのわたしを救ってくれる存在なのだ。  シンプルなんかじゃなくたっていい。物欲だって、あってもいいじゃないか。  この世への執着は、生きる力そのものなのだから。
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