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「琴美、誕生日おめでとう! これ、大したものじゃないけど」  外では雪がちらつく二月の底冷えする日、我が家を訪れた理沙が差し出したのは、少し早い誕生日プレゼントだった。  赤いリボンを(ほど)いて大きなラッピングを開封すると、立派な造りの卓上ミラーが出てきた。 「わぁ、かわいい! 今使ってるミラー、三面鏡で便利なんだけど、小さくて使いづらいと思ってたんだよねー。ありがとう!」 「よかったぁ。前にそんなこと言ってたし、これ琴美のイメージにぴったりだと思って。大きいから邪魔になるかとも思ったんだけど」  理沙はほっとした顔つきになった。  プレゼントをもらう側の置き場所にまで気を遣ってくれるなんて、理沙には立派にミニマリストの精神が染みついているようだ。 「確かにこの部屋、ほんと狭いからなぁ。ごめんね、今日はこんな場所で飲むことになっちゃって」  ベッドと壁の間のわずかに空いた床に座り込んで、コンビニで買ってきたチューハイを開けたところだった。家に人を通すのはずいぶん久しぶりだ。  今日は大学構内で入試が行われていて、不正防止のために在校生のわたしたちは立ち入り禁止なのだ。  理沙とわたしにとっての憩いの場であるアウトドアサークルの部室にも当然入れない。 「うちは実家でさえあんなのだから、狭いのには慣れてるよ」  そう言いながら、並べられた新旧二つの置き鏡を眺める理沙。 「こんなのでも場所取るし、この古いほうの三面鏡はお払い箱かな」とわたしが鏡を手に取ると、 「そうだね、このサイズなら小型不燃ごみで出せるんじゃない?」と理沙はチューハイ片手に頷いた。 「いや、まぁ捨てるのはいつでもできるし、とりあえず仕舞っておこうかな」  不要になった鏡を片手にわたしは押入れへ近づいていき、それからハッとした。  理沙に押入れの混沌を見せるわけにはいかない。
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