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今にして思えば、おかしなことがたびたびあった。
物を入れるばかりでほとんど取り出すことのない押し入れだけど、稀に中を探ることもある。
去年の秋、釣り好きの先輩に海釣りへ連れて行ってもらうことになり、前の年に買った長靴が必要になった。
サークルに入って間もないころにも釣りに行く話になったが、先輩が盲腸で入院したために計画が流れていたのだ。
そのときアウトドアショップで購入した本格的なゴムの長靴が、この押し入れのどこかに入っているはずだった。
さすがに新品のまま出番のない長靴を差し置いて、新しい物を買い求める気にはならなかった。
デザインを吟味して選ぶこと自体に魅力のあるおしゃれ着と比べれば、長靴のような実用的な物は買う楽しみも薄い。少し探して見つかるならばそれに越したことはなかった。
と言っても面倒だな……。普段ろくに管理もせずに目を背けてきたブラックボックスに、改めて向き合うというのは気が進まない。
横着者の自分に活を入つつ開き戸を開け、上半身を押し入れに乗り出した。
意外なことに、目的の長靴はすぐ見つかった。
一年以上前に無造作に突っ込んでからというもの、その上から次々と日々の生活の残骸が堆積しているはずだったが、手で掻き分けて探ってみれば、購入したときのままの紙箱に難なく行き着いた。
予想外にあっさり見つかったことには少し驚いたが、本当におかしな事態は、箱を開けてからだった。
箱から出てきた長靴は新品のはずなのに、使用感があるような気がしたのだ。くるぶしから下の部分にうっすらと砂が固まったような変色が見えた。
まるで泥水の中をしばらく歩いた後、軽く洗ったものの落としきれず乾いたかのようだった。
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