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沙穂の気持ち
そんな僕に、先日、会社から辞令が出た。
中堅の建設デザイン会社に勤める僕には入社して初めての転勤命令であった。
2025年開催予定の大阪万博に合わせ、地元、大阪の支店に異動ということになった。
リモートで済む時代になったとはいえ、実際に現地で仕事をしないと業務上、無理な点が多々あったからである。
東京を離れたくない、沙穂はどうする? いっそ会社を辞めて転職してしまおうか、など悩んだが、結局、今の自分のキャリアなどを考えるとそんな勇気もなく、僕は大阪行きを決めた。
◆◆◆◆◆◆◆◆
「直くん(僕は清水直弥という)、パスタの茹で具合、見てくれる?」
「うん、あと30秒かな、塩は入れた?」
「うん」
その週末、僕は久しぶりに沙穂のマンションを訪ねた。
「ヴォンゴレロッソって炒める計算もあるから硬さが命なのよね」沙穂はフライパンを振る。
「いやいや、これはヴォンゴレビアンコだから。トマト使ってないじゃん」
「あ、そうなの? いつも間違えちゃう」沙穂は笑った。
通い慣れた沙穂のマンションは、都心から少し離れた郊外にあってベランダからの眺望も緑に溢れている。
遠くから、少年野球の練習だろうか、金属バットの音も聞こえてくる長閑な昼下がり。
沙穂との平和な時間と、思っていたが・・・。
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