55人が本棚に入れています
本棚に追加
出来上がったパスタに冷えた缶ビール。
いただきますと言ったところで、沙穂は「で?」と口を開いた。
「報告って何よ?」沙穂らしいストレートな物言い。
「あ、うん。・・・今度さ、大阪に異動っていう辞令が出た」
「え、そうなの? それで?」
「うん。行くしかないかなーって・・・」
「東京を離れるのね」沙穂はパスタをフォークに絡めて言った。
「すまん」
「なんで謝るのよ、で、直くんは、私にどうして欲しいわけ?」
「いや、どうもこうも、遠距離恋愛になるな、って」
「それだけ?」沙穂はビール片手に首を傾げる。
「それだけ」
「・・・直くん、私たち、別れよっか」
「うん?!」僕は食べていたパスタを喉に詰まらせた。
「結婚から逃れたい、要はそういうことでしょ」沙穂は言った。
「いや、まあ、僕にはまだ自信がなくて・・・」
「直くんはなんにもわかっていない。そこは『結婚してほしいから俺について来い』でしょ、普通」
僕は沙穂に言われて、一気に追い込まれた。
同時に、自分は自分のことしか考えていない甘えん坊だということも。
でもいいのだろうか?
沙穂だって仕事がある。大学を出て、沙穂は希望通りアパレルメーカーに就職したのだから。
今の時代、寿退社なんて時代でもあるまいに・・・。
「沙穂に『付いて来い』なんて言えないよ」
「直くん、あなた、いつまで経っても子供ね。そういうところも好きだったけど。いつまでこの関係を続けたいと思っているの? もう私達、付き合って7年だよ。そこは直くんが腹を据えるところでしょ、結婚とか考えているの?」
沙穂に図星を射抜かれた。
「結婚する理由ってなんだろう?って・・・」僕は思わず呟いた。
「サイテー。そんなことしか考えていなかったのね。今日は直くんとの最後の夜になるわね」
「ごめん、謝るよ。別れたくない」
「無理。丁度良かったのかも。私達のこの関係、ズルズルと続けたくはないし」
こんな展開は予想してなかった。
パスタはすっかり伸びて冷めていた。
最初のコメントを投稿しよう!