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別れのおやすみ
その夜、沙穂とベッドに潜り込んだ。
「朝、起きたら、お別れしましょ」沙穂はそう言ったが、僕は、寝付けなかった。
フラれた男が「さよなら」なんて去っていく姿は見せたくない。
時刻は午前2時を過ぎていた。
僕は、沙穂の寝息を確認して、そっと沙穂の前髪にキスをした。
「おやすみなさい」
僕はそう呟いて、ベッドから起きて、静かに部屋を後にした。
愛車の古い65年式ワーゲン・ビートルのエンジンをかける。
バサバサというエンジンの音が聞こえると同時にカーステレオから、フィル・コリンズの「Against All Odds」が流れてきた。ギアをファーストに入れ、僕は車を発進させた。
もうここに来ることはないのか、と思うと、なんだか不思議な感覚だ。
当たり前の7年間が終わったかと思うとなんだか胸が痛んだ。
(沙穂、ごめん・・・)僕は車の三角窓を全開にした。
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