17人が本棚に入れています
本棚に追加
自分は見知らぬ喫茶店の末席で頬杖をつき酷く落胆していた。原因は目の前に置かれたティーカップ。中身は苦手な芳香を放つ紅茶という存在だ。
喉を潤す筈であったアイス珈琲は窓際席の黒髪美人の元。彼女は注文が入れ替わった事に気付かず手に持つ文庫本を開き懸命に何かを書きこんでいる。コレが小説であるならば陳腐なメロドラマが始まる場面なのだろうが......まあ現実はそんなに甘くはない。
──夢はいかがですか?
人生に暗澹とする自分の心に誰かが応えた。首を持ち上げると黒一色のいで立ちの若い男が自分の席の隣に立っている。パナマ帽を深く被る美形の男は流しのピアニストだと名乗った。
「僕の演奏を聞けばどんな人間でも望む夢を見る事が出来るのです」
男はドラッグの売人の様に耳元に手を当てて囁いた。
最初のコメントを投稿しよう!