7-2.月光 ※

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7-2.月光 ※

 ラーグは政務を終わらせた。やらねばならないことは、徹夜したとて焼け石に水であるほど大量にあるが、今日中の決裁が必要なものはすべて済ませたので、今日はここら辺で良いだろう。 「あれは何をしている?」  ラーグが今日はもう政務をする気をなくしたのを悟った侍従長は書類の始末を部屋付きの官吏に命じていた。 「閨房作法の時間かと存じます。今日は昼に黒曜の宮とお会いしたようですね。」 「出歩く程に快復したのであれば、今日はあれでよかろう。」  途端に侍従長が渋い顔をする。昼前に前触れを出していないからか。 「皇、明後日には天中節のための予行がございますので…」 「抱き潰さねばよかろう。」  また脆弱な瑠璃の宮に伏せられては困ると紫水が進言してくるが、遮って一蹴する。 「代わりにお前が来るか?」  ラーグが嗤って、紫水の宮に矛先を向ける。  もっと渋い顔になる。 「冗談だ。とうがたってかわいげがない。抱く気にならん。」 「それはそれは。」  ラーグが政務宮から戻って、湯を浴び、侍従に酒を注がせて一息ついているところに、夜伽の来訪が告げられる。  皇の部屋に足を踏み入れる瑠璃の宮の身体は白すぎて月の光のせいで青白く見える。影のせいでただでさえ細い身体が一層細く見える。月の(つい)の神にそのまま召し上げられそうだ。  とはいえ、自分の二本の足で歩くことが出来ているのだから、十分回復したということだ。  まだ少し飲み足りないラーグは侍従を下がらせ、瑠璃の宮に酌をさせる。宮は大人しく皇の足下に侍ると酒瓶を傾ける。本当はここで歌を歌ってみせたり、舞を披露したりと興じるのものだが、これにはそういう技もない。気の利いた話をする訳でない。つまらぬ伽役だが、無駄にベラベラ話すやつよりは良い。  手入れされて輝くようになった白金の髪は以前より伸びて、肩に届こうとしている。緩く編まれた髪の影から見える首についていたラーグの手形は薄く黄色になっている。もうじき跡形もなく消えるだろう。    足下に侍る伽役は緊張したような面持ちだが、白い肌にかすかに上気した名残を残していた。 「何をしていた?」 「…閨房の、手ほどきを、受けておりました…」  予定外の命を受けて、作法の教授の時間は急遽中断されたのだろう。瑠璃宮の水の神官はかなり熱心な性質(たち)のようだから、復調したとなれば、容赦はないのだろう。 「それは知っている。」  その先を言え、と圧をかける。伽役ならば嬉々として閨に侍るところを、この宮は未だに忌避する。いつまでもかまととぶるので、悪趣味に揶揄う。  何とか怒らせる前に言わねばと焦り、つかえながら答える。 「…皇の恩寵を頂くために…張型、を咥える、練習をしておりました…」  羞恥が勝つのだろう。顔が真っ赤になっている。 「なら、すぐに咥えられるだろう。」  寝台に移るとラーグはルクレシスの夜着を剥いだ。  何処か気だるげで、誰かに抱かれてきた後かのような色香を放っているのが面白くない。腕を掴んでひっくり返すと四つん這いにさせて、後孔を自分の方に向けさせる。香油でてらてらと光るそこに指を突き入れると、張型のおかげでいつもよりすんなりと指が入り込む。容易く二本目も銜え込んだ。  これなら壊すこともないだろう。  ラーグは指を引き抜いたそこに自分の剛直を押し当て、腰を掴んで一気に突き入れた。 「ひっ、い!あ、あー!」  一気に貫いたため、喰い千切らんばかりに締め付けてきて痛みを感じる程だ。掴んだ腰を叩いても、当人は力を抜くことに気がつかない。衝撃に耐えるように四つん這いになった四肢が強ばって震えている。  心許ないほどに細い首筋から痣がなくなるならと、口を寄せて、吸い上げた。組み敷いた身体がびくりと反応して、やっと隘路の締め付けが緩む。  唇を離したところには真っ赤な痕が残っていた。  死を司る月の神には未だ渡す気はない。太陽神の化身たる皇の所有印を白い肌に刻んでいく。そして、ゆっくりその身体を中からも侵していくのだ。  閨に後孔に湿った水音が立つ。  引き抜く時にはわざと敏感な部分を亀頭の返しでひっかけ、挿れる時には前立腺に当てるように動かす。  伽役の性感など気にしたは無かったが、これがラーグに抱かれながら、気を飛ばすことは面白くない。快楽または苦痛、ラーグが与えるもので全てが満たされていなければ赦しがたい。  貧弱な異人は痛めつけるとすぐに寝込んでしまうから、今は悦楽で塗りつぶすのだ。 「っあぁ、ひぅっ、あ、ん!」  上がる嬌声、跳ねる身体、うねる体内、それらの反応が最も顕著な処ばかりを擦りあげる。  あまりに強すぎる刺激に瑠璃の宮の陰茎からは涎が零れて、張りつめていく。 「こっちを向け。」  ラーグは、瑠璃の宮の上体を引き起こさせ、捩らせる。向かい合った唇を上から犯す。深く重ね、舌を吸い、溺れるほどに体液を流しこみ、嚥下させる。  息すらも全てを支配していく。 「ふ、やぁ、あっふ…ふ…ぁ、ん…」 「いい声で啼くようになってきたな。」  上体を解放すると、宮の身体は力を失ったかのように寝台に崩れ落ちる。ラーグが掴んでいる腰だけ高く上がり、しなる背中に汗が浮かんでは流れていく。  もはや背筋を辿られるだけでも刺激になるようで、ラーグを包み込む内壁もせわしなく蠕動して、ラーグを高めて行く。  瑠璃の宮もあらゆる刺激から限界が近いらしい。陰茎が細かく震えている。 「習ってないか?先に達するなと。」  ラーグは堪えられなさそうな伽役の姿に先に粗相させて罰を与えるのも一興だが、紫水の小言をくらうのは鬱陶しい。そして、吐精は体力を使う。先に力尽きてはつまらない。  身体を繋いだまま、仰向けに返すと、だらだらと透明の粘液を零して立ち上がる陰茎の根元を自らの手で締め上げ、精を吐き出せないように戒めた。 「っっ!い、た…は…あ」  陰茎を強く握られた痛みと高まりがせき止められた苦しみに呻くのに構わず、ラーグ自身が達するために腰を打ち付けて中を激しく突き上げた。  首筋、鎖骨、乳首も吸い上げ、最奥に高まりきった情欲を吐き出す。同時に手を離すと、伽役も嬌声を上げて白い飛沫を飛ばした。 「あー、ひ、ぁー、あ!」  白い粘液が身体にぼたぼたと落ちる。月明かりで青白く見えた四肢は、今は上気し、そこに幾つもの鬱血痕が散っているのを見て、ラーグは満足する。 「しかし、達しただけでも気を失うのか。」  そのまま意識を失ってしまったらしい伽役を呆れて見下ろした。  側仕え達に衣服を整えさせ、整え直された寝台に下ろさせた伽役と共にラーグも横になる。少し体温の低い身体は腕の中に抱き込むと気持ちが良い。そのままに目を閉じた。
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