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9-3.宵 ※
『皇がこの国の贄だからだ。』
ルクレシスには皇の言葉を理解し難かった。さぞ自分は呆けた顔をしているだろう。
(神たる皇が贄?)
彼は何を言わんとしているのか。この皇土の頂点に神として君臨し、全ての人に傅かれる皇と、誰からも望まれず唾棄されてきたルクレシスが同じ贄と。だが、疑問を口にすることが出来なかった。
皇の黒曜の瞳の昏さの、その底をルクレシスには見定めることが出来なかったからだ。
ルクレシスの腰に回されていた腕を放され、床に降ろされた。
「さて、我はお前の願いを一つ聞いてやることになった。お前はその対価に何を差し出す?」
床にぺたりと座っているルクレシスを見降ろし、皇が面白そうに問うてくる。
「…御心のままに…」
ルクレシスに出せる対価は、この身体しかない。
皇がふっと笑う。
「存分に払ってもらおうと言いたいところだが、明日に響くと紫水が煩い。口でしろ。」
「御意。お仕えさせて下さいませ。」
皇の元に深く拝跪して、その御足に額を擦り付けて情けを請う。盛装のままの皇の着衣に手をかけて腰回りの装飾を一つずつ外して床に落として行きながら、口で皇の中心を探る。
皇がカウチに腰を下ろすと、その両膝の間に身体を滑り込ませて舌を伸ばす。
顔を埋めているルクレシスの髪を皇が手慰みに梳く。
「髪は切るなよ。掴むのに丁度良い。」
猫がぴちゃぴちゃとミルクを飲むように陽根を舐め上げながら、「はい」と答える。
初夜に口淫で手を使うことを禁じられて以来、許しを貰っていないのでルクレシスは手を使わない。立ち上がって来た茎の裏側に顔を埋めると、裏筋に尖らせた舌を這わせる。膝の間から皇を見上げる格好になり、ふと目を上げると皇が髪に指を絡ませながら、じっとルクレシスを見ていることに気がつく。
「どうした?」
「!…いえ」
急に恥ずかしくなって、目を外して、言葉を濁すとそのまま口腔に陽根を咥え込む。ルクレシスの口にはものが大きすぎて入りきらないが、出来るだけ喉を開いて亀頭を迎え入れる。気道が塞がれた息苦しさで、きゅっと喉奥が締まる。だが練習の甲斐があって、嘔吐中枢を避けて深く飲み込むことが出来るようになった。
さわさわと髪を撫ぜられ、まるで幼児が上手く出来たことを褒められているかのようだ。上手く出来ていると安堵する。
息が続く限り喉奥で雁首を刺激し、棹に舌を絡める。皇のものが硬度を増していき、さらに口の中がいっぱいになり、酸欠のせいかルクレシスの表情が陶然としてくる。
散々皇の舌に嬲られて口腔内も性感帯だと教え込まれたせいで、口の粘膜を擦られるだけで身体が粟立つようになっていた。
「いい顔だ。」
ラーグがルクレシスを褒めると潤んだ濃紺の瞳で見上げてくる。赤く充血した唇で口いっぱいに自分のものが咥えこんでいる図はなかなかに支配欲を満たすものであった。最初がかなり暴力的だったため、未だにびくつくことがあるが、最近は快感を拾えるようになってきた。自分色に染まって行くのは一興だ。
(これを甘やかすのも虐げるのも我だけだ。)
ルクレシスは鈴口を舌先でくすぐったり、吸い上げたり刺激を加え、唇で傘をしごく。首を動かして浅くから深くまで繰り返す。じゅぶじゅぶと音がして、口の端から唾液が溢れ落ちる。口蓋に先を擦り付けるようにするうちに、皇のものが高まり、一際大きくなったかと思うと、びゅるっと粘液が吐き出された。口で受ける許しを貰う前に、口内で受け止めることになる。必死に零さないように唇に力を入れるが口から溢れそうになる。
勝手に口に恩寵を頂いてしまったが、皇は気に留めた様子もなく、出し切って「飲め」と命じられる。口いっぱいの粘液を必死で飲み下す。粘度が高いために喉に絡み付く。
「…は…ぁ…は」
酸欠気味のところからやっと空気を取り込めて息が切れる。
「ご恩寵頂き、ありがとうございます。」
肩で息しながら、平伏する。
「いささか中途半端だな。」
皇がごちる。皇のものは一度欲を吐き出しただけでは満足せず、固さを保っている。
「お前はもう良い、下がれ。他の者を呼ぶ。」
(他の者?)
「…私では…役者不足でございますか?」
思わず皇の言葉に食いさがってしまう。
(私ではだめ?…身体も役に立たない?…上手に出来ていない?)
急に見捨てられたかのような心もとなさが足元から這いのぼる。
「今日は気も立っている。お前では明日起きられんだろう。」
大丈夫とは口に出来ないが、ふるふると頭を振って皇の言葉を否定する。前回は午前中、うとうととしてしまい、寝台に寝かされたが、午後からは普通に過ごせた。大丈夫なはずだ。
「覚悟は良いが、煽るなよ。」
珍しく強情を張ったルクレシスに、皇は嘆息すると、「来い」と寝台にむかった。
「あ、あぁー…ひ、ぅ…は、ぁ、いぅ…」
「締めるな、力を抜け。」
ラーグは寝台で盛装を解き、瑠璃の宮の身体を組み敷く。宴席後すぐに呼び出したせいか、後孔はあまり解れていなかった。しかし瑠璃の宮は焦っているのか、ラーグのものを早く飲み込もうと動く。だが、身体に見合わない陽根に苦悶している。座しているラーグの上に向かい合わせに腰を下ろす形で、それでも自重で徐々に怒張を咥えこんでいく。
向かい合わせのおかげで、瑠璃の宮の表情がよく見える。細く柔い髪が汗で額に張り付き、苦しさに耐える表情。のけぞる細い首を舐め上げると、びくっと身体がしなって、後孔から力が抜けたのと同時に一気に腰が落ちる。
「やぁー!ぁ、ぁ…あ…」
一気に奥まで開かれた衝撃への生理的涙なのか目尻から滴がしたたる。溢れる滴も舐めとって、伽役が落ち着くまで唇を貪って暇潰しにする。しばらく舌を嬲っていると控えめに拙い舌使いで応え、四肢から力が抜けた。衝撃が和らいで、少しは馴染んで余裕が生まれたようだ。
「動いてみろ」
上になっている瑠璃の宮に命じると、膝立ちになって腰を動かし始める。しかしその動きはひどく鈍い上に、数度腰を上げ下げしただけで内腿が震えている。必死らしいが、下肢に力が無い為にこれ以上も期待できなさそうだ。
ラーグが達するには一晩かかっても無理そうである。そういえば、散歩も半刻出来ないほどの箱入りだった。つねに想定の斜め上をいく貧弱さだ。
「…もう良い、じっとしていろ。」
腕に余る背を抱えて、そのまま敷布に寵童を倒して正常位に持ち込む。上体が離れたことが不安なのか、両の手が宙を掴む。ラーグはその腕をとると自らの首に回させる。
「掴まっておけ」
この寵童は性交を嫌がるわりに身体が離れると不安がる。普段は人と交わることを苦手としている節があり、ラーグに対しては恐れからか余計に距離をとっているが、朦朧とすると熱を求める。
そのまま屹立を自分にとって最も気持ち良い様に動かし始める。あまり時間をかけると虚弱な四肢に負担をかけるので早く終わらせることにした。
「んっあ、あ、あっん」
突き上げる毎にくぐもった声があがる。ラーグの自分本位な動きでも啼くようになったのは開発のおかげか。声をあげたくないのか、唇をかみしめている。
口を開かせるために指を捻じ込んだ。皇の指を傷つけることは許されないため、嚙み締められなくなった口から嬌声と唾液がひっきりなしに零れる。
欲を放つために激しく注挿を繰り返すため、身体のぶつかる音と水音が帳の中に響く。二人の荒い息が交じる。
中はうねり、隘路が吸い付いてくる。外身の体温は低いくせに内は熱く、ラーグを溶かそうとする。
初夜からそうだったが、この中は悦い。狭く頑なだが、入り込むとラーグの形に馴染んでくる。
これが腕の中にあると満ち足りる。これの一片でも、感情でも思考でも感覚であっても、ラーグの腕の中からこぼれていくことは不快だ。
(我だけを感じて、啼け)
ランス国の狗の妄言に心惑わされるなぞ、許さない。
伽役が正体を無くす程に乱れるところを強く抉って、縋りつかせる。
そしてラーグも一気に高まり、中に精を吐き出した。
「ひっぁー、あ、あぁーーー」
熱を叩きつけられたせいか、細い身体が固く強張った同時に瑠璃の宮の小振りな陰茎も吐精した。ラーグの身体にも白濁が散る。
熱い飛沫がべっとりと二人をよごす。許しもなく、閨で放つとは。
「堪え性のない。これは仕込み直しか。」
ラーグはぶちまけられた残滓を呆れて見下ろした四肢は脱力しきって意識も飛んでいるようである。精を放った衝撃だけで呆けるとは。
夜伽役の体液で身体を汚されたので湯の用意を命じる。
湯を使っている間に寝台は綺麗に整えられていた。眠りこける瑠璃の宮の身体も清められたようだ。その身体を引き寄せ、ラーグも目を閉じた。
(お前は我のための贄だ。)
翌朝、ラーグが身を起こしても、瑠璃の宮は寝入ったままだった。熱は出していないようだが、心労もあってか全く起きる気配がない。ラーグが身体を起こすと側にあった熱が無くなったのを探すように身動ぎするが、覚醒はしないようだ。
皇の熱が移ったところに身体を丸めると、再び規則正しい寝息を立て始める。側仕えが起こそうとするのを制すると、自分だけ身支度させる。
「ぎりぎりまで寝かせておけ。」
ラーグは朝からまた何十という国から使者と謁見するが、ルクレシスは今日は晩餐だけの予定である。今しばらく寝ていても支障はない。
「随分と甘やかしますね。」
侍従長が手ずからラーグに長衣を羽織らせながら、軽口を叩く。
「あれが使い物にならないと口煩い奴がいるからな。」
「赤水が昨日の気晴らしに、日中外に連れ出したいと言ってましたが、それは無理そうですね。」
天中節のお祭りを瑠璃の宮に見せたいと。
「明日にしろ。」
外に出るとなると警護の者も増やさねばならない。昨夜の件に関してはすでに手を打ったので大丈夫だろうが、有事になっても走って逃げることも出来ないルクレシスには盾となって守る護衛が倍は必要だ。
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