2-2.仕込み ※

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2-2.仕込み ※

 ルクレシスは長いこと寝台から降りられなかったが、一ヶ月程かかってようやく普通に起居、普通の食事に戻った。身体が完治するまでの間、何も要求されることは無かった。  療養中に何も音沙汰がなかったため、もう忘れ去られているかと思ったが、老医師が全ての薬を不要と侍従長に言うと、まず夕食後の時間に閨房作法を習う時間が設けられるようになった。 「閨房作法…?」  聞くと、皇の閨に侍る際に必要な振る舞いについての授業だという。 (またあれを…)  そう思うと憂鬱になる。詰まらぬ者として捨て置いてはくれないのか。  時間になると水の神殿の神官だという少年宦官がやって来て、夜伽役の作法を教授してくる。  皇の恩寵に授かることが如何に光栄なことか、と説かれても、先の体験を思い出すと何を光栄としたらよいのか、ただの拷問だろうと思う。シザ教において性的なことは堕落と教え込まれてきたルクレシスにとって、閨事についてどうしても忌避感がぬぐえない。  最初は講釈を聴くだけだった閨房作法の時間も、ルクレシスの体調を見ながららしいが性技も教えられることとなった。  それはルクレシスにとって何よりも辛い時間になった。  神官がまずは口淫の手本だとして、ルクレシスの前を咥えて、唇で茎を締め付け、舌を絡めてくる。浅くチロチロと刺激をしてきたかと思うと、喉奥まで飲み込まれ、喉の奥できゅーっと締め付けられる。歯を食いしばっても脊髄を這いのぼる快感に声が漏れそうになる。  皇の召命のあった夜も、萎えるルクレシスを無理矢理に慰撫された。あの時、臓腑を抉られる痛みと同時に与えられた無理に勃たせるための愛撫を思い出すと吐き気する程の嫌悪感を覚える。  今も陰部を吸われて嫌でたまらないのに、身体は勝手に反応してしまう。 「この雁首のところを舌先で舐められると悦ばれますよ」 「先を吸われると気持ちよくございませんか?」  所々で講釈を入れながら、ルクレシスにもその快楽を教えるように少年神官は異国の王子の陰茎を丁寧に咥えて、追い上げていく。初夜が凄惨だっただけにルクレシスの恐怖と忌避感を察してか、神官は快感だけを教え込むように口淫を施してくるのだ。 「…放せ…やめっ…あーぁ」  ルクレシスは高まる射精感に必死で抗うが、手で柔い所を刺激され、強制的に高められる。 「ひっ、あっあーーーー!!!」  必死で神官を押しのけようとするが、少年すらも引き離すことは出来なくて、最後には我慢出来ずに吐精してしまった。  少年は白濁が放たれるという瞬間には口を離して、白濁を手で受け止めた。 「頂いても良いですか?」  手に溜まったそれに対して自分と歳も変わらぬような少年に飲精しても良いかと問われて、反射的に拒絶する。  少年神官は絹布で手を拭うと寝台のそばに置かれた手水で手を洗い流した。  次の晩の時にはルクレシスが咥える練習というのを少年の指を使ってさせられた。水の神官というのは去勢されており、陰茎がないのだという。  皇の伽役が皇以外の性器を咥えるのは障りがあるということで、練習はもっぱら張型か指になるという。  「皇の恩寵もお許しがあれば、そのままお口で頂戴なさって下さい。後孔で御仕えなさる時も皇が高まられた時には恩寵を受けてもよいかお許しを受けなければいけません。恩寵を身に頂く事は最も名誉なことですよ。」  ルクレシスが吐精したものも赦せば、彼にとっても栄誉だったのだろうか。だとしても、自分の出したものを飲ませられない。自分が飲むのも躊躇われる。飲めと言われたら飲むしかないのか。 (…慣れろということか) 「はい、御上手ですよ。そのままもっと喉奥を締めて下さい。」  熱心な教師の少年宦官が実習として、ルクレシスの喉に指を突っ込んでくる。反射的に逃げそうになるがもう片方の手で頭を支えられているから、逃げられない。最初は舌を指で押さえられるだけでも胃の中の物を戻しそうになって、彼の指に噛みついてしまった。 「口で御仕えする際には決して歯をあててはなりません。喉奥は慣れるまで少々辛いかもしれませんが、皇に悦んで頂けるよう練習して参りましょう。」  しっかりと覚えられるようにと、歯を立ててしまうと、その度ごとに尻肉に鞭を当てられた。皇の陽物に間違っても歯を当てたら、処刑されてもおかしくないため、ルクレシスのための仕置きだという。  何度も鞭打たれて、ようやっと指で口蓋を擦られても舌の根を触られても、喉を痙攣らせながらなんとか耐えられるようになった。それでも喉奥の狭くなる部分では嘔吐いて、耐えられずに指を吐き出し、咳き込んでしまう。 「少しずつ御上手になってきておられますよ。大丈夫です、少しずつ慣れて行きましょう。」  ルクレシスは人生で初めて褒められたはずなのに全く嬉しいと思えなかった。  性技の仕込みが始まったと同時に、朝と昼とに老人が部屋に尋ねてくるようになった。初めて皇国を訪れたルクレシスに皇宮のことなどを伝えるためという名目だが、話の端々に歴史や皇国の地方の特色、言語の成り立ちなどが混じる。話はとても興味深く、毎日の楽しみとなった。  皇国には“陽・陰・水・土・木・風・火”の7つの神殿とあり、それぞれが国の様々な機能を分担しているとのことだ。  陽の神殿は神託によって皇が選ばれる神殿であり、最も格が高いという。皇都の旧区画に陽の神殿の総本山があり、それは”始まりの神殿”と呼ばれる。神官は男だけだ。  反対に陰の神殿は女だけの神殿で、生と死を司る神殿だという。産み、育み、人は最期にまた陰の神殿に戻っていくという。そのため”(つい)の神殿”とも呼ばれる。皇の卵は陰の神殿で生まれ、育てられると。  水の神殿は癒しの神殿と言われ、癒しの術である医術と薬術と、心身の癒しをもたらす性術を司る。癒し手となるために、男は宦官となり、女は盲目だそうだ。土の神殿は豊穣の神殿とされ、農業や畜産業、商業を司る。木の神殿は創造の神殿とされ、建築や食を司り、人々の生活に結びついた神殿らしい。火の神殿は裁きの神殿と言われ、軍事・治安・裁判の役目を負う。風の神殿は轟きの神殿であり、全土を普く統括する税・経済・教育に渡る役目を担っているとのことだった。 「皇国の政治は政教一致ということか」 「恐れながら、ご推察の通りでございます。しかしながら、そもそも皇国は始祖神がましまして、国を作り上げられたことから、政と神事は別のものではございません。神事こそが政でございます。」  ランス国では、北方に広く流布しているシザ教の教会が独自の権力を持つが、政治の中枢自体は国王と国府が担っており、政教分離の体制をとってきていた。しばしば教会の権力は無視出来ないほどに大きく、また王族もシザ教に帰依していたために、教会の政治への介入は頻繁であったが、何より貴族の利権が政治を左右していた。ルクレシスは自分の住む場所や待遇が変わるたびに、何となく力関係の変化を感じていた。  自分に付けられたという侍従長にも文字が読めない事、書けない事を伝えて、手習いの教材もそろえてもらった。午前と午後にそれぞれ来る老人は、きっと無知な自分を教育するためにきた教師なのだろうと察していた。それならば、もはや取り繕う必要もない。学べと言われるなら、学ぼうと思った。国を出た事で気持ちも開放的になっているかもしれない。  性技のことだけは除けば、とても充実した日々である。  水の神殿の少年宦官から性技の訓練を受けた後は、身体を閨に慣らすためと全身を弄られる。  特に後孔は香油を纏わせた指や性具で毎晩開かされている。  少年宦官の細い指一本ですら、異物感がすごい。二本目で引き攣れるピリピリとした痛みがある。またあの皇の陽物を入れられたら、と思うと恐怖で全身が強張ってしまう。 「力を抜いて下さいませ。大丈夫ですよ、柔らかくなってきていますから」  少年はたっぷりと香油を纏わせて、ルクレシスを宥めながら根気よく開いていく。  入り口を入念に解し、開かせる。指を根元まで挿れると腸壁をぐるりと指の腹で撫でて、刺激に慣れさせる。ゆっくり引き抜いては、また挿入する。それを何度も何度も繰り返すのだ。  口淫の練習中に同時に後孔を開かれることもあり、その異物感に気をとられて口が疎かになると、奉仕をさぼらないようにとして喉奥に突き入れられる。  思わず噛んでしまうと尻肉に鋭い痛みが走る。  息も絶え絶えになりながら性技の練習が終わると、後は快楽に身を任せるようにと言われる。しかし、ルクレシスは身体を触られる度に竦みあがってしまう。  強制的に高められて、精を吐き出しても、それが快楽なのかはわからない。倦怠感と翻弄された疲労感でそのまま意識を失うように眠ってしまうのだ。
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