4-3.飴と鞭 ※

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4-3.飴と鞭 ※

 ルクレシスの乗馬練習は成果が捗々しくないものの、ただ馬に触れているだけでも楽しかったし、乗せて貰って周りの景色を眺めるのも、とても気持ちがよくて好きだ。  馬に乗ると視点が全く変わって、同じ場所でも世界が違うように感じる。  皇国に来て、初めて庭を散策し始めた頃は、転ばないように足元を見ながら歩いていた。その時は足元に咲く花や色々な形の葉っぱに感心していたが、視点が上がると遠くまで続く道や木々になる実に、風を感じる。  窓枠越しにしか見なかった世界に、色んな形や色や感触で満ち溢れていることを感動した。部屋に籠っているとつい思考の渦に呑み込まれがちになるが、気分が晴れるのを感じる。  馬上での赤水との話で、行幸で赴く()は皇土の中でも最も南に位置し、植物も食べ物も皇都とはまるで違うと教えてもらった。皇都では見られない大河や海もあるらしく、赤水に聞いた。彼曰く、人よりも牛より、馬よりも何倍も大きい生き物もいるらしい。本当だろうか。  侍従が図書室から絵入りの図鑑を持ってきてくれた。 「海にはこんな生き物もたくさんいるとのことですよ。」  色々と調べてくれたらしく、この世で一番大きい生き物や、人を襲う恐ろしい怪物などを紹介してくれる。  皇城にある蔵書館には、海の生き物以外にも植物や動物の図鑑もあるらしいが、挿絵が全て手描きの図鑑は貴重なため一日しか持ち出しが出来ないらしい。その都度、侍従が外宮にある蔵書館から図鑑を借りてきては、夕方に返しに行っている。  字の部分は活版印刷であっても、図鑑の挿絵の色彩や緻密な部分まで印刷することは出来ず、全ての絵が一点一点手描きで入れられており、その手間から図鑑は非常に貴重だそうだ。 (…欲しいな…)  見たい時に借りれば良いだけなのだが、手元において、いつでも見られたらいいのに、と思ってしまう。非常に貴重だというからルクレシスの持っている財産で買えるものだろうか。 (抱かれた褒賞で買うのか…)  自分が抱かれて皇を満足させれば、両国の間に良好な関係が保たれるというなら抱かれる名目が立つ。自分に出来ることが夜伽くらいで侍従長を始め宮に仕えてくれている者達の生活のためと考えれば、謹んで召命に応じるべきだと思える。  しかし抱かれた代金を自分の為に使うのか。最近は何の為に抱かれるのか分からなくなっている。自分の居場所が無くなるのが怖くて、召命がある度に安心してしまう。 「何を考えている?」  冷たい声にルクレシスの身が強張った。  今、皇の宮に召命を受けて、侍っているのだった。  皇の酌をしていたはずが、気を飛ばしてしまっていたようだ。ありえないことに皇の杯が乾いてしまっている。  冷や汗が背を流れ落ちる。酌に侍りながら別の考え事に耽って、勤めを疎かにするという自分のしでかした失敗に血の気が引く。  最近、特に失態もなく、皇の不機嫌を被ることなく来ていたためか、集中力に欠いていたとしかいいようがない。 「申し訳ございません。」  床に額ずいて、許しを乞う。気がつけば手に持っていた酒瓶の中も空になってしまっていた。どれだけぼんやりとしていたのか。  側に控えていた皇の侍従が心配げな顔で見ている。慌てて新しい酒瓶を侍従から受け取って、皇の杯に注ごうとするが、皇はガラスの酒杯を面白くなさそうにテーブルに置いて立ち上がる。ガラスがテーブルのガラスの天板に当たってカシンと硬い音を立てた。もう要らないということだ。 「興が削げた。こっちに来い。」  短い言葉がルクレシスに突き刺さる。 「申し訳ございません。」  再度平伏して、寝台に向かう皇に続く。  今日はすでに不興を買ったため、ひどく扱われるかもしれないと思うと緊張する。しかし、まだルクレシス自体が不要だと下げられないだけましなのだと思う。 「脱げ。」  これ以上不興を買うわけにいかず、さっと夜着を落として寝台に上がる。皇の獰猛な目にさらされると布一枚も纏っていない身体は無防備すぎて震えるが、無駄に身を縮めたり、身体を隠すことは許されない。  見られているだけで肌が粟立って、チリチリとする。特に今夜は月が大きく、窓から入る光が寝台の上を明るく照らしている。  灯火が落とされている寝室でも皇が視線だけでルクレシスの四肢を縛っているのが分かる。 「我を無視する位だ。一人で悦いようにやってみろ。」  冷たく見下ろされて、身体が強張るが皇の静かな怒りを解くには言うことを聞くしかない。  目の前で自慰をしてみせるしかない。作法の手解きで自慰の仕方は習った。その通りに手を動かせばいいのだが、恐怖と羞恥の葛藤で動けない。だが、固まったままでは余計に不興を買うだけだ。必死に身体を動かす。 「ご、覧下さい、ませ…」  羞恥で声も掠れる。脚を開いて秘部を晒すと中心を露わにする。ルクレシスの心情そのもののように萎縮した中心に恐る恐る指を這わせる。 「っつ!」  ピシッと細い棒で手を叩かれて思わず声を上げてしまう。 「前は触るな。前を弄らずとも、堪え性のない身体だ。達せられるだろう。」 「は、はぃ…仰せの、通りに…」  前を触らずに自慰を晒せというのだから、自分で後孔を嬲って達するまでしろということなのか。何度も少年宦官に自分で受け入れる準備が出来るように仕込まれたのだから、それを思い出してやればいいのだ。  脇机の上に置かれている香油の類を使わせて下さいと言える雰囲気ではない。すでに後孔に滑潤液をたっぷりと注がれているとはいえ、渇いた指を挿入するのは辛い。羞恥に顔を伏せながら、指を口に含んで唾液を絡ませる。 「っふ、ぅ…」  蕾に指を添えて、ゆっくりと後孔に沈めた。すでに夜伽に慣らされた身体は難なく指を飲み込んで行くが、自分で自分の指を差し入れているあられもない姿態に涙がにじむ。 「ん、…は、ぁ」  入り口を拡げるように指を回すと、気持ち悪ような、背筋が粟立つような感覚が走る。 「脚を閉じるな。」  腰が引けて、閉じ気味になった内腿を再び棒で打たれる。鋭い痛みに身を縮めてしまうが、羞恥より皇の勘気だけを恐れて必死で脚を開いて、腰を突き出し、秘部を晒す。  物で打たれて、ルクレシスはその鋭い痛みに心まで蝕まれるようだった。 (要らないって言われる!) 「…お、赦し、ください。」  赦しを乞いながら、必死に指を動かす。しかし、身体は焦れば焦るほどに快楽をつかむことが難しく、皇の眼前で達するどころか、指が前立腺をかすめるために生理的な反応として中心は緩く立ち上がるだけだ。 「…ふ、あ…ぁ、ぅ…」  混乱したルクレシスの頬を焦りと恐れと苦しさの混ざった涙が滑り落ちる。  挿し入れた指をがむしゃらに動かす。皇の剛直を受け入れると、全身全てで快楽を感じてしまうのに、どうやっても決定的な悦楽を掴むことが出来ない。  この余興は皇が命じた通りなら、後孔で達しなければならない。皇の命に従って、やり切らねばと気ばかり焦る。  
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