3-1.召命 ※

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3-1.召命 ※

 もう忘れられているのかと思っていたが再び、夜伽に召命された。閨房作法も少年宦官から仕込みを受けていた為に、またあの行為をしなければならないことは分かってもいたが、召命で暗澹たる気持ちになる。  皇の侍従長が皇の命を携えて、この外宮の部屋に訪れてから、部屋はにわかに慌ただしくなる。  少年宦官が、陽もまだ高いうちから湯の用意をし、ルクレシスの身体を念入りに準備していく。 「触るなっ!」  初夜の際にも為されたが、体内を薬液で幾度となく洗われる“清め”を宦官の手で行われる事には、どうしても耐えられず、身の程も弁えずにその手を払ってしまった。召使い達は仮初であっても主人が拒否する限り、無理を強いることは出来ない。  皇の召命という誉れに浮足立っていた召使い達が、主の鋭い声に今度は狼狽することになる。  湯殿の入り口には身体の大きい男性が居て、逃げることは出来ない。だから神官の手を払って逃げ出したルクレシスは石造りの湯殿の片隅に逃げ込んでいた。  身体が冷えないように着せられた薄い衣を必死に掴んで蹲って、一切を拒絶する。  暫くすると、ルクレシス付きの責任者だと最初に言っていた老年の男性がやって来る。困った使用人達から呼び出された侍従長だ。 「神官が何か失礼を致しましたでしょうか?」  面倒をかけられているのにそれはおくびに出さずに、蹲るルクレシスを気遣う言葉をかけてくる。  担当神官の所為とルクレシスが言えば、別の神官がやって来て、同じことを施すだけだ。だから、ルクレシスは何も言えない。  ルクレシスの心情を慮って侍従長は、召使いたちは憂いなく閨に侍られるように準備をするだけなので、安心して身体を預けてほしいと穏やかに言葉を尽くす。それでもルクレシスにとっては承服し難い。最初は何も知らないままに施された処置だったが、何をしないといけないのか分かっていて、身を任せるのは耐え難かった。  強情を張るルクレシスに根気よく付き合いながらも、侍従長は仮初めの主人に厳しい現実をも教える。 「神官めが粗相をしましたのなら、平にお詫び申し上げ、御方様に御許し頂けるまで罰を与えます。」  罰を与えて欲しいわけでない。ルクレシスのせいで彼が罰を与えられるのは耐えられない。ルクレシスが閨房作法の時間に与えられる仕置きのような生温いものでないことは想像に難くない。 「責務を果たさぬ場合、不要な者として手を切り落とされることでしょう。」  蒼白になって行くルクレシスの顔を侍従長は真っ直ぐに見つめ、“清め”に関して彼が折れることはなかった。  ルクレシスがこのままごね続ければ、おそらくこの侍従長も多大な罰を受けるのだろう。押し黙ったままのルクレシスの前で拝跪しながら、侍従長はルクレシスが気持ちの整理をするのを辛抱強く待っていた。濃紺(ランスルー)の瞳が一度揺れた後に、ルクレシスがうなづき、素直に宦官の手に従った。  ルクレシスは自分の感覚を遮断し、自分が自分でないような壁一枚隔てた所から自分を見ている感覚へと意識を飛ばして、やり過ごした。どんなことでもそうしていれば終わっていくのだ。  全身綺麗になると、宦官が全身に香油を塗り込めていく。胸の両飾りを丹念に捏ね、摘み上げて、ぷっくりと赤く腫れ上がった頂にたっぷりと香油を含ませた筆で艶を与える。両胸からの焦れた快楽で緩やかに立ちあがった中心も優しく撫で上げられ、蜜口に穂先を浅く入れられて、香油を塗される。  少年の熱心な処置のせいで、身体は色めいてくる。 「失礼致しますね。」  腰枕を敷いて、うつ伏せになっているルクレシスの後ろの口に硬質な物が触れる。思わず力が入ってしまうが、少年が少し浮いた腰の前をやわやわと触って、なだめてくる。 「中に香油を入れさせて頂きますから、力を抜いて下さいね。」  滑潤油で皇の陽物を受け入れる負担を減らして、中がなるべく傷つかないようにと配慮してくれているのは分かるが、丁寧にされる程に辛くて仕方がない。  ルクレシスが羞恥を長引かせないようにという配慮なのか、少年は躊躇することなく、少し力をかけてつぷっと瓶の口を押し込んできた。 「…っう…」  瓶の硬質の感触に喉が引き攣る。 「瓶が少し冷たかったでしょうか?申し訳ありません。」  少年は謝りながらも手を止めることはなく、瓶を挿入したままぐっと傾けてくる。温い粘液が体内の粘膜をとおる感覚は全身に鳥肌が立つほど気持ち悪い。 「奥まで注がせて頂きたいので、失礼致しますね。」  少年がルクシエルの腰を下から持ち上げて、膝立ちにさせ、瓶の中身が腸内の奥まで十分に流れるようにする。 「…やめ…あ、う…」  硬質の瓶がゆっくり抜かれると今度は指が挿入された。毎晩、そうされていても慣れることはない。馴染ませるように香油が腸壁にすり込まれる。垂れるほどに注ぎ込まれた香油がグジュグジュと音をさせる。  部屋付きの召使い達としては、初夜のような傷を負わないようにと念には念を入れての準備なのだ。ルクレシスの方は早々に身も心も擦り切れていた。  昼過ぎから始められた準備が全て終わったのは、もう日が落ちた後だった。  心許ない薄い夜衣を着せられて、部屋を送り出される。侍従長に伴われて、再び皇の宮の扉の前にやってきた。香油を注がれた体内や敏感な部分が熱い。 「よく御務められるよう」  侍従長に見送られて、ルクレシスは皇の居室の中に進んだ。  皇はカウチに仰臥し、何かの書を読みながら、片手には酒をあおっていた。入ってきたルクレシスを一瞥することもない。  このまま無視してくれたら良いのだが、儀礼に従って口上を述べなければならない。幾度となく練習させられた言葉を間違えたら、これも教育係が罰せられるのだろう。お決まりの口上を間違えないように唱えていると、皇が書とグラスを置いて、立ち上がる気配がする。 「来い」  抵抗することも出来ないが、立ち上がろうとすると足が震えた。寝台に向かう皇に従うが。寝台に近づくごとに息が苦しくなってくる。あの夜の恐怖からか身体の熱がすっと引いて行く。 「怖いか?」  浅い息を繰り返すようになるルクレシスを見て、皇が面白そうに揶揄する。  ルクレシスは「いえ…」と皇の言葉を否定する。「お召し頂けて光栄です」と習った通りに口にする。  必死で恐怖を押し殺して、心を向こうに飛ばすように務める。そうやっていれば、いつかは夜があけて解放されるだろう。 「せいぜい勉強の成果を見せてもらおうか」  ルクレシスはその言葉にはっと頭を上げて、皇を仰ぎみる。  閨房作法の時間に習ったとおりに粗相なく勤めなければ、あの部屋の者達が不適格と罰を与えられるということなのか。自分のことだけだと投げやりになることも許されないのだと、皇の目が言っている。  皇の不興を買うわけにいかない。 「…ご奉仕、させて下さいませ…」  教えられた通りの屈辱的な言葉を述べて、皇の絹衣に触れた。胡座をかいている皇の腰に顔を埋めて、必死で皇の中心を銜え込む。何度も練習したように傘の部分を舌でなぞり、唇に引っかけてしごくと立ち上がってくる。口の中に収まりきらぬ大きさだ。横から咥えて、長い茎に舌を這わす。さらに柔い袋も舌を伸ばす。  皇は指をルクレシスの白金の髪に絡ませて、手慰みに遊んでいる。北の特徴そのままのルクレシスの髪は、皇国では珍しい、ウェーブのかかった柔らかな猫っ毛だ。全く手入れされておらずバサバサだった髪はもうひと月以上洗髪の度に油を刷り込まれ、日に何度も櫛けずられている。そのおかげで今はカーブに従って艶が出るようになっている。  手触りが良いのか、皇の手は髪を何度も梳く。だがルクレシスはその手も怖い。皇の手がいつ後頭部を押さえ込んで喉を詰めてくるかもしれないからだ。  習った事を全てつぎ込んだような脈絡のない愛撫ではあるものの、幸いにも皇のものは高まってきた。 「出すぞ。飲め。」  大きすぎるものを咥えるのに疲れて、顎の端から唾液がだらだらと零れるままになっているところに、急に引き寄せられ、恐れていたように剛直が深く喉奥まで突っ込まれた。  そのまま喉奥に直接液を熱い液を流し込まれる。  反射的に離れようと逃げ打つ頭は押さえられている。それでも窮鼠が何とやらで皇の手から身を捩って、半ばで逃げ出した。 「げほっげほっ、う…え…」  嘔吐中枢が刺激されて、胃の中のものせりあがってくる。目の前がチカチカする。治まらないえずきに耐えるが、喉奥から苦いものががってきて、吐き出しそうになる。この場でそんな粗相は出来ない。口元を押さえて、こみ上げてくる唾液を何度も飲み込んではやり過ごす。  息が落ち着くほどに思わず逃げうった自分の軽率さに血の気がひいていく。
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