8-2.寵愛 ※

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 天幕内の侍従が香油の瓶を置く、ことんという音で、ラーグの腕の中のルクレシスの身体が痙攣するように反応した。侍従の気配に驚いたのだろう。  今更、閨でもないからといって痴態を晒すのに抵抗する必要もないものを、ルクレシスは特に閨以外で愛でられるのに抵抗を見せる。皇たる者が己の寵童を愛玩するのに、侍従達が居たり、昼間だからと遠慮をするわけもない。  どこまでその抵抗が効くものか試してやろう。  香油の瓶を開け、手に馴染ませる。背筋から手を差し込み、窄まりに触れた。 「…ん…ぅ…は、ぅ…」  唾液の絡むぴちゃぴちゃという音に、漏れ出る声、香油のぐちゅぐちゅという湿った音が天幕に籠る。    快楽に弱くなっているそこは、狭いがとろとろと溶けてくる。指を動かすとわななき、指を止めると愛撫をせがむようにきゅうと締め付けてくる。熱くて、狭くて、柔い、その感触で愉しむ。 「…あ、あっやぁ、…はぁ、あ…皇…」  もう一方の手で胸の飾りを潰す。その度に膝立ちの脚が震えていた。 「欲しければ、うまく強請ってみろ。」 「ぅ、ん…皇…皇…皇」  眦を真っ赤にして、困惑の涙目で見上げてくる。本人は強請っているつもりはないのだろう。だが、その(いとけな)い仕草がこそが、男の興を刺激することを分かっていない。  縋るような目は軽く無視して、石ごと耳介に嚙みつく。ガチンという硬質な音がする。 「っい、あっ!」  甘噛みにルクレシスの蕾は敏感に反応する。そこを焦らすように指先で擦ってやるとピクピクと震えるのは、快感を覚えているからだろう。貪欲に飲みこもう蠢く中は熟れ始めている。 「っふ、くっ、……ぅぅっあ……」  指を引き抜くと嫌々するように吸い付いてくる。挿し入れると、悦い所に当ててほしいと言わんばかりに腰が揺れる。  天幕の外に高い靴音がする。 「皇、馬車の準備ができました。お移りを。」  あと少しでルクレシスの理性が飛びそうになっていたところに、天幕の外の紫水の声でルクレシスが冷水を浴びせられたような表情になる。 「時間切れだな。」  ラーグは手を抜いて、侍従の持ってきた蒸し布で香油を拭う。  皇の寵童は、突然手放され、高みから突き落とされたせいで、呆然としている。それでも取り繕いたいのか、のろのろと着衣の乱れを直そうと動く。    これから午後の移動だが、やはり()は遠いとうんざりする。二度とこんな遠方の行幸は組みたくないものだ。《蒼天の真皇》と聞こえてこなければ、ラーグが来る必要もなかった。  皇と騙るものは時々現れるものだ。そんなものは捨て置いてよい。  かつてこの手で切り裂いた筈の《蒼天》の亡霊が今になって、ラーグを最果てまで誘い出すのだ。  手慰みのお陰でまだ気を紛らわせる。行幸という(てい)を取っているせいで、南が更に遠い。()ごと手中にしたルクレシスは、亡霊を冒涜する存在に苛つくラーグの心を鎮める。  獣の(あぎと)に捕らえられた哀れな羊と紫水が同情し、皇の安寧のための生贄の子羊を期待しているのは知っている。だが、ルクレシスはラーグの贄ではない。ルクレシスはラーグに喰われている間、安寧に浸っていられるのだ。  だから幾度となく教え込む。お前は誰のものなのかと。   「欲しかったのだろう?」  夜になり寝台で、ぐずぐずになったルクレシスの後孔に怒張を宛てがった。馬車の中でも愛撫し、食事の給仕中も焦らしたルクレシスはすでに理性が飛んでいて、閨ではこくこくと首肯しているだけで言葉も出ないようだ。  ラーグが亀頭で口を押し広げて、一気に根元まで押し込むと同時にルクレシスの張り詰めた陰茎から白濁液が弾け飛んだ。 「ふぁっあー!…や、皇…や、おか、しぃ…」  ラーグの腹とルクレシスの下生えがべっとりと汚れる。 「突き入れただけだぞ」  ラーグは半ば呆れて言うがもはや聞こえていない。焦らしすぎて快楽の箍が既に壊れてしまったらしく、突くごとにだらだらと精液を零す。夜伽としての作法も何もなく、ただただ啼き濡れる。  痙攣する内壁にラーグも気を持っていかれそうになりながら、細い身体に何度も悦楽を刻みつけた。  何度、体内に放ってもラーグとルクレシスの細胞が混ざり合うことはない。薄い粘膜で隔てられた混ざり合えない孤独が募ったとしても、ラーグはルクレシスが正気に戻らぬように抱き続けた。
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