9-3.宴 ※

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「言い出しただけは有る。見事だ。褒美に何を望む?」  長身の青年に一歩も譲らず、技と舞で勝ちを得た少年にラーグは賛辞を贈る。皇からの言葉を受けて榛色の瞳の少年が進み出た。 「お褒め頂きありがとうございます。もし、御許し頂けるならご恩寵を賜りたくございます。」  皇座をはっきりと見据えて少年が申し出る。 「御寵愛深い瑠璃の宮様が御座いますのに、差し出がましい事とは存じますが…」  いや、命知らずに皇の直視しているのでは無く、足元の寵童を見据えている。その視線にたじろいだのか、ルクレシスがラーグの足に縋るかのようだ。 (愛い奴だ)  真正面切って夜伽役として挑発されたことに不安げな顔をしている。見捨てられ不安の強い寵童を揶揄うのも一興だと、東方の血が入っていそうな薄い茶色の髪に薄い眼の色の少年の願いを聞きいれることにする。 「褒美を遣ると約した。良かろう。」 「ありがとうございます!」  皇の寝所を射止めた少年は華が咲いたような笑顔で叩頭した。 (領主よりも皇国語の発音が皇都よりか…)  ただの辺境の踊り子にしては洗練されている少年男娼。誰の仕込みか。  彼の後ろで他の少年達は彼を羨ましそうに見ていた。だが、その少年達を好色そうな目で見ている貴族連中がいるため、彼らも今夜は売れ残らずに済むだろう。宴席を華やがせるために働いた者達に寛大にも報奨を取らせるのも皇の威光を示すことになる。もしあぶれるような者が出れば、皇として配下の者に十分に褒美をやるように充てがわなければならないが、どうやらその手間もなさそうだ。  無表情ながら伏し目がちに皇の酒杯を満たすルクレシスの糸の頭を撫ぜる。 「もう身体は良いのだろう。お前も来い。」  ラーグの言葉に驚いたように酒を注ぐ動作が止まる。 「…しかし、彼…が…」  ラーグの言葉にルクレシスは戸惑いがちに返してくる。上目遣いの濃紺の瞳の上に刺繍のように編み上げられた白金の髪が掛かる様がなかなかいい。瑠璃の宮についている髪結いは良い腕らしいと、ラーグは一人満足する。 「異論は聞かん。」  反論を許さないと首筋を撫ぜると、御意と固い声で返ってくる。  皇都風仕込みの少年を抱くことはそれほど気が進まないが、皇が約を違えるわけには行かない。ルクレシスも交えるなら良い趣向だと思える。  その夜、皇の閨には艶めいた声が重なった。歓喜に歌う声と堪えるような声に淫靡な水音が加わる。  少年男娼が皇の腰の上の跨り、踊るように腰を振っている。  ルクレシスは少年と向かい合うように皇の胸上を跨いで膝立ちになるように命じられている。跨る事で脚を閉じられず、露わになった後孔に皇の指が埋められていた。  指で中を掻き回され、もう一方の手で胸の飾りを弄られて、ルクレシスは快楽に酔わされる。しかし追い上げられるのに何かが決定的に足りない。高まる程にその空虚感が強くなる。向かいあった少年の熟れた後孔が皇の陽根をずぶずぶと呑み込んでいるのを見たくないのに見てしまう。 「あぁ、ぁっ、気持ち、悦ぃ、悦いです、はぁ」  薄い茶の毛の少年が艶然とした表情で腰を擦り付けては引き抜く。引き抜いては味わうようにまた腰を落とす。時に激しく、時に緩やかに奉仕している。 「あっん!出、ちゃぅ、出ちゃぅ…」  そのとろとろに溶けた後孔から皇が一度放った精液が泡立ち溢れる。そして雁首まで引き抜くと今度は食するかのように皇の長大な雄を食んで行く。 (美味しそう…)  宴席で飲まされた酒で酔っているルクレシスの身体は飢え、頭は飢餓感に支配されていた。皇の長い節だった指が差し込まれ、ルクレシスの前立腺を刺激する。しかし、それは戯れのようなもので、皇は指を一本だけ差し込み、ほんの時折、入り口を広げるように二本目を食ませるだけだ。 「ふ、ぁ、っん、ん」  目の前で眦を色香に染めた少年が満足そうに啼いている。 (…足りない…足りない…)  もどかしい感覚が強い。少年はもう二度目の陽根をその身に頂いているが、ルクレシスには貰えない。 「宮様、物欲しそうな、顔」  甘い吐息の合間に少年が指だけで愛撫されているルクレシスを嗤う。 「あぁ、んっ…初心そうなふりをして、感じやすくて淫乱…」  少年が腰を擦り付けてうっとりした表情で、ルクレシスの紅く立ち上がった乳首を捻り上げる。 「やぁ!いたっい!」  急に鋭い刺激が与えられて、ルクレシスのつるんとした亀頭から透明の汁が溢れる。  閨に少年と侍って、最初にルクレシスが口淫の奉仕をするように皇に命じられた。ルクレシスが胡座をかいた下肢に顔を埋めると、少年は皇の目を愉しませるための淫靡なショーを始めたらしい。  蹲っているルクレシスの後ろで、艶声と水音が響く。  ルクレシスが躊躇し、涙した自慰の余興を彼は披露しているのだ。  紫水の宮に叱責されたようにルクレシスには皇の寵を得て宮として立っていることの自覚が足りないのだ。性技を忌避するくせに、しかし皇に縋り付く。使用人からの世話は甘受するのに、彼等から向けられる宮への絶対的な信仰心を恐れる。  皇の傍にいる覚悟も足りず、皇に命じられ、皇に誓わされなければ、杭を打たれなければ簡単に流される。中途半端な覚悟なのだ。  耳の飾りが痛い。胸が痛い。  ルクレシスが忌み嫌う痴態の全てで皇に媚び仕える少年男娼。  皇が少年を串刺しにして、いいように揺らす。皇も目を細めて、彼の身体を堪能しているようだった。皇はルクレシスには愛撫程度で寵を与えはしない。それだけで自分が役立たずだということが突きつけられる。 「皇の御分身、はぁっん、ごつごつして…奥が、あぁ」  少年が自ら拡げた膝に手をかけてさらにルクレシスに見せつけるように脚を開く。  見ているルクレシスの脳が焦燥に焼かれ、次第に麻痺してくる。  彼のように強請ればよいのだろうか。 (…欲しい、欲しい、欲しい…)  腕の中で酔わされ、意識が飛ぶほどの寵が。    頭がそれだけに染まってくる。御馳走を前にしてお預けを食らっているかのような飢餓感に支配され、彼の嬌声に悪酔いする。  しかしルクレシスの中にある箍が外れない。皇も箍を壊す程の刺激もくれない。 「今更、かまととぶるんですか?宮様。いつもどうおねだりされておられるんですか?」  少年男娼は舞いながら見せた、ルクレシスを馬鹿にした目付きを挑戦的に投げてくる。 「欲しいくせに。」  少年が耳元に口を寄せて嘲笑うと、皇の上で一際激しく腰を振り始める。 「あ、あ、あ、おっきぃ!御恩寵下さいませ、下さいませ!は、ぁ、ぁ」  彼が激しく動くのに合わせて、ルクレシスを責める指も二本に増やされ、激しく突き入れ、捏ねられ、奥が擦られる。 「やぁー、あ、あ、っん!」  ルクレシスの口からも堪え切れない嬌声が溢れる。陰茎が蜜をこぼす。それでも決定的な何かは貰えない。 「あ、いきます、いきます、あ、あつっあぁー」  皇の恩寵を体内に叩きつけられたようで、少年が痙攣と共に自分の精も放った。べっとりとそれが向かい合うルクレシスにもかかる。 「退け」  一気に高まった少年がぐったりするのを皇が身じろぎと共に雑に自分の上から退かせた。 「御恩寵頂き、有難うございました。清めさせて頂きます。」  少年は乱れた息を飲みながら、皇の上から降りると皇の下肢に口を寄せた。  ルクレシスも上から退かせられ、ただ少年の精の汚されたまま、高まり切らなかった身体を持て余して呆然と敷布に座り込む。  少年は皇の茎の根元から鈴口まで丁寧に舌を這わせて、残滓を清めていく。 「あぁ、宮様も私めの粗相で汚してしまいました。きれいにさせて頂きますね」  少年の白濁液はルクレシスの金糸の下生えと立ち上がった陰茎にもべっとりかかっていた。 「そいつには触るな。」  少年がルクレシスの陰茎を口に含もうとすると、やや不機嫌に皇が止めた。  ルクレシスのことは閨番が蒸したタオルで拭いて汚れを清めた。 「茶番に付き合ってやったが、本当の願いは何だ?」  夜伽役を終えて辞す体で床で叩頭する少年に皇が問うた。
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