11-1.邂逅

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11-1.邂逅

「陽の神殿に向かう。」  皇自らが叛逆者のもとに赴くことを必死で止める紫水を捨て置いて、ラーグは領都の南方に位置する陽の神殿に一師団を引き連れて赴いた。  紫水から連絡が行ったのか、赤水も後から単騎でラーグを追ってきて、思い留まらせようとする。 「皇、我らにお任せを。」 「ぬけぬけと賊にしてやられ、目の前で逃げられた皇軍が生意気に。」  片膝をついてラーグの進路を阻む赤水も一蹴する。普段は剛気の赤水も返す言葉もなく、ただ拝跪して必死でラーグを止めようとして来る。  苛立ちが募る。 (苛つく…使えぬ皇軍も…生半可な自分にも) 「あれの始末は我がつける。今度こそだ。」  領都の陽の神殿は完全に新徒の手に落ちていた。僻地の神殿とは言え、皇の象徴たる陽の神殿が邪教の根城となっていることに皇軍の憤りも強い。 「皇に対峙する者は神官であろうとも容赦は不要。徹底的に蹂躙せよ!」  皇が退かぬため、赤水が皇を守るように布陣を施し、総攻撃の号令をかける。  激しい檄突音で戦端が開かれる。神殿周りに配された神官達は戦場が専門ではない為に呆気なく騎兵達に蹴散らされていく。神官の薄い防御網を騎兵が切り裂き、門扉を閉じて籠城を決め込む神殿の壁を重工兵達が取り付き、壁面突破の工作を行う。  壁上から重工兵の上に雨のように矢が降らされるが、何とか盾で防御しながら進めていく。その間に皇軍の上級弓兵が弓狭間(ゆみさま)を狙って確実に神官を仕留めていった。 (なぜ、あいつは籠城なんぞを選んだ…)  籠城するにしてもこの陽の神殿は孤立しており、籠城したら最後、逃げる先がない。しかも戦目的ではない神殿壁は重工兵によってそう遠くない内に陥落させられるだけだ。 (…何が狙いだ?)  蒼天は表向きは明朗な性質だが、その実は狡猾だ。ラーグは万全に策を練ることはするが、最終的には正面突破型だ。  一際大きな破壊音の後に城壁が崩れ落ちる。  ラーグは思考を一旦止める。蒼天が何を画策していようが、叩き潰して回るのみ。先駆け隊が瓦礫の上を騎馬で駆けて、内部への侵攻を始める。ラーグも赤水の隊を引き連れて入殿する。  訳も分からず逃げ惑う神官も容赦なく皇軍が切り捨てていく。圧倒的な戦力の違いに神殿勢は為す術もないはずであるのに、何故籠城等選んだのか。  神殿の建物の中央に位置する祭場にまで先駆け隊が踊り出たところで、赤水が手綱を強く引いて戦闘に興奮している馬は止めた。不満そうに馬が嘶き、その場で足踏みを繰り返し停止する。  その横にラーグは馬首を並べた。そして祭壇を仰ぎみた。 「久しぶりだな、宵天(しょうてん)。まぁ、始まりの神殿に比べると貧相な神殿だが、神官どもがそこら中に躯となって転がっている様なんぞはなかなか感傷的な風景だと思わないか。」  祭壇の中央に、つまり皇の位置に顔の爛れた男が悠然と立ち、祭場の皇軍を傲然と見下げている。  十数年経とうと、顔が潰れていようと蒼天だとはっきりと解る。 「蒼天、やはりお前か。《真皇》とは、皇になり損ねたものが皇の真似事か?」  ラーグがとどめを刺さなかったから、蒼天はあの夜に取り残されたままなのだ。  
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