12.渇望 ※

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12.渇望 ※

「うー…んっん」  意識を失っている体が本能からか足で敷布をかいて、ラーグの下から逃れようとする。 「我を拒むな」  力のないあがきなぞ児戯にも等しく簡単に四肢を敷布に縫いとめられる。  血がにじむ包帯の上から腕を力任せに掴むと、痛むらしく呻いた。  皇軍が神殿を鎮圧した後、残党狩りを赤水に任せ、ラーグはルクレシスを連れて、領主を失った領主の館に戻った。  手当をさせると老医師、紫水の制止は一切聞かず、意識を失ったままのルクレシスを寝所に連れ込んだ。  刺し傷以外にも擦り傷や痣だらけの四肢は発熱しているらしく、やけに熱い。  苦しそうに浅い息を繰り返す唇を蹂躙し、舌を絡めあげる。  意識のない口からは唾液が溢れるがままになり、口内を犯す水音が響く。  肌に這わす手はざらつく。その肌の擦り傷も痣もラーグが与えたものではない。  もう一度、誰の身体が思い出させるために、その傷に舌を這わせ、吸い上げる。傷の上から塗り替えるように鬱血痕を残し、所有印を施す。その度にびくびくと体が揺れた。傷に塗り込められた薬がラーグの舌にピリピリとした痺れと苦味を齎らす。  心の臓の上に唇を寄せると、どくどくと忙しない鼓動が伝わって来る。 (これは生きている…)  これは未だ喪っていない。 「ふ、っあ、あ」  赤い突起を吸い上げ、時々、喰い破りたい衝動に駆られて歯を立てる。白い肢体がいやいやと身を捩ってラーグから逃れようとすると、口渇感がひどくなる。  喰い破ってしまいたい衝動と喪ってはいけないという抑制が、ラーグの心を干上がらせるのだ。  血肉共々、(こころ)までも、手の内に入れたい。いや手の内にあっても満足することはない。融合し、二度と離れないようにしたいという渇望感。  下肢を割り開いて、後孔に指を突き入れた。 「い、ぁ!っあ」  引きつった声をあげ、腰が逃げようとする。 「すべりが悪い」  指が引っかかって、侵入を拒む。  香油の瓶を傾けて、下肢に油をそのまま垂らした。芳醇な香りを放つ液が垂れて、窄まりに落ちるのを指に絡めて突き入れる。性急に油をまぶし、限界まで高ぶっている剛直を押し当てた。 「やぁー!!あぁー!!」  硬く閉じている蕾をこじ開けるように腰を進めると、背を仰け反らして引き裂かれる痛みにだろう、悲鳴をあげる。  閉じられた目からも涙が幾筋を落ちて、苦しさから逃れようと四肢をばたつかせる。口は喘ぐようにはっ、はっと浅く荒い息を吐き、初夜のように苦痛に顔が歪む。  それでも構わず、腕は頭上でまとめあげ、脚はラーグの両脚で組み敷き、抵抗を封じた。  いつもは十分に水の神官にほぐされてくる所は、強引に割り入った屹立を押し出そうと蠢いて、きつく締めてくる。体内は燃えそうに熱い。 「いや、苦しい…痛い…許して…」  気絶している寵童は、うわごとのように北方語と皇国語と混じって許しを乞い続ける。しかし、容赦する気には一切ならない。気を失っていようが、魂の底までラーグの存在を刻み付けて、最奧までラーグのもので満たさねば気がすまない。  強引に進めても初夜のように裂けないのは、ラーグとルクレシスが僅かばかりでも融合したためか。いや、全然足りない。  斟酌なく中を抉り、仰け反る体に歯をたてて、鬱血痕の上に歯型を残す。抑えていないと、そのまま歯を白い皮膚を破り、血をすすり、肉を食いちぎってしまいそうだ。渇望から来る衝動をやり過ごすために、もっと深く、もっと深くと穿つ。 「ひ、ぐっ…ん、ぁぁぁーーーあ゛あ゛あ゛ーーー!」  ずぐりという感触とともに亀頭が肉壁を貫いた。(はらわた)の最奥まで突き入れたことで、内臓を割り開かれたルクレシスの四肢が激しく痙攣する。  失神で閉じられていた目が見開かれ、濃紺の瞳から涙が滂沱に零れ落ちる。悲鳴を上げる口からは唾液が零れるままになっている。  涙も唾液もこぼれるままになっている顔を胸の中に抱え込む。白金の髪に顔を埋めるとルクレシスがいつも纏う香料に汗の匂いが混じって、確かにここにいると感じられる。  痙攣が止むのを待ってから、ゆるゆると動く。小刻みに動かすだけで、これまで以上に高く啼く。 「ひぁっあ、あ!やー」  雁首に内襞が絡みつき、ラーグの熱も高まってくる。ここに欲の全てを吐き出したい。内臓全てを犯し、冒すのだ。  頂まで高まった凶暴な激情を(はらわた)に叩きつけた。 「やぁーーー、あつ、ぃ、あつい、あぁー」  ラーグの怒張を咥えこんでいる粘膜が熱い液に打たれてびくんびくんと痙攣する。四肢はいつからかもはや暴れる力をなくしたようでだらんと敷布に落ちていた。  結腸から自身を引き抜く時、ぐぷっという粘着音ともに白濁液が落ちてくる。  熱発している身体は燃えるようにあつい。これだけ無体を強いれば、この虚弱な身体が一層弱ることは頭では分かっているが、それでも足りない。  流れ落ちる精液にむしろ空虚感が強く、それを埋めるためにこの壊れそうな四肢を腕に抱いていないと気がすまない。  色狂う、酒に溺れる、戦に明け暮れる。歴代の皇が囚われてきた狂気に喰われる。  力を失わない剛直でラーグの残滓を零す蕾を塞ぐために切っ先を埋めた。正常位でラーグは白い胸が浅く繰り返す呼吸で上下するのをただ遠く見ながら、埋め込んでいった。 「…あ、ぐっ…」  再び咥える大きさにルクレシスが呻き声をあげる。 「…皇…、…皇…」  ルクレシスの手が空を掻くように手が伸ばされる。薄っすらと開かれた濃紺(ランスルー)が皇に向けられる。空を彷徨っていた細い指がラーグの頬に触れた。 「…皇…?…大丈夫、ですか?」 「何がだ。」  気遣わしげにかけられる声が煩わしく、硬い声で返す。こんな虚弱で何も出来ないような寵童に心配されるほど、自分は酷い顔をしているのか。 「皇が…私を、殺してください…」 「勝手に死ぬことも殺されることも許さぬ。」  言葉とともに楔を根元まで打ち込む。そうするとルクレシスの体がほっとしたようにこわばりを解く。 「…必ず側にいると、約しますから…皇も私を側に…置いてください…ませ」 「ルクレシス、我の名を呼べ、ラーグと。」  皇になると同時に真名もなくなる。皇は人ではなく、神になるのだ。だから神官という人の身は捨てられて、新しい存在へとなる。宵天も居なくなる。真名は誰に明かすことすらなくなる。  ラーグですら、もはや自分が何の生き物なのか分からなくなる時がある。 「…ラーグ様…」  男にしては声変わりもしていない細い声であるのに、呼ばれると苛立っていた気持ちが凪いで行く。 「ラーグ様…」  ラーグの渇望感に水が与えられる。砂漠の砂にただ一滴落ちるだけ、それだけだが。 「ルクレシス」  名を呼ぶと応えるようにルクレシスが口を開く。 「ラーグ、さ、ま…」    ルクレシスに名を呼ばれれば、すべてを破壊したい狂気がわずかに引いていく。自分の存在を確かめることが出来る。  蒼天は絶望に囚われ、破壊へと走り、大切なものすら自ら壊した。ルクレシスに真名を呼ばれれば、ラーグは戻ってくることが出来るのか。
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