2-1.半身

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「皇、東の辺境伯達は押されがちのようですが、援軍は必要ないでしょうか?」  辺境の情報を報せる飛文が届いたらしく、目を通しながら赤水が問うてくる。 「いや、東は陽動の可能性がある。進撃と冰の反乱と符牒が合いすぎている。黒曜の采配通りで良い。ぎりぎりの戦力で南下だけは食い止めろ。」 「やはり始祖とやらは帝国の手先だったのか。」  赤水は忌々しげに赤髪を掻く。  蒼天が帝国商人の財布を使っていたことは確かだが、帝国のために動いたかは謎だ。あの男は誰かの下につくような男ではない。 (何がしたかった?)  《真皇》と名乗ったように皇になりたかったのか。  如何に南の地を支配下に置いていたとしても、ああもラーグを警戒させておき、皇軍を従えた皇に真っ向から反逆を起こしては勝算などない。実際に反乱は一日にして鎮静され、冰は厳しい統制下に置かれることとなっている。  蒼天が勝算のない勝負をするとは思えない。  暁を殺されたことへの復讐か。そうだとすれば効果的であったと言える。如何に自分が血塗れた虚無の存在か改めて思い知らされたのだから。  全て失われたと思っていた同朋を改めて自分の手で屠り、いつしか間遠になっていたあの夜をまざまざと思い出させられた。  馬を駆けさせ皇都に近づくごとに亡霊の怨嗟の声が大きくなる。しかし怨嗟や罪悪感に絡め取られてはならない。足元を絡めとられようとも、ラーグは今暫く歩き続けねばならないのだ。  蒼天が遺したもう一つのもの。 (燃える水…)  それについては詳細を調べるように命じている。  結果として虚仮威しにしかならなかったが、この世を理を覆しかねぬものだった。  ランス国で火石が産出され、どの国もその恩恵にあやかっている。火石を元に技術開発され、商業が発展し、火石の消費量は増大していくのに、ランスの前王が火石の価格を跳ね上げたのだ。そのために諸国は遠からず火石が底つくことを悟った。  これまで火石の毒のために手を出しあぐねつつ、牽制し合うことで均衡を保ってきた諸国がめいめいに出し抜き合いに始めた。ランス国と帝国が近づいたことに皇国が強く抗議をしたのも必然であった。 「燃える水は本当にあると思うか?」  ラーグは轡を並べる赤水に問う。 「水は火を消すので燃えないのでは?あれは奇術です。」 「奇術ならもっと問題だな。」  奇術で水を燃やす事が出来るのであれば、奇術師がこの大陸で最強となってしまう。  奇術でないとして、本当に燃える水があるならばランス国は要らなくなる。火石に用がなくなれば、あのような小国はすぐに滅亡するだろう。 (ランス国が滅びれば、ルクレシスの戻るべき国も亡くなる。)  弱々しい寵童は自身を虐げた国であってもその責を引き受けるという。ラーグに縋って、ラーグの囲う籠のうちのだけで生きれば良いのに。ラーグの機嫌さえうかがっていれば何不自由なく、何者にも苦しめられることなく生きられる寵も地位も与えているのだ。  皇という名の贄となったラーグは、火石の国ひいては大陸の歪みの贄となったルクレシスに空虚に欠けた自分の魂を投影し、その欠けを埋めていた。それは紫水や黒曜、赤水とは全く違う存在なのだ。  真名を与え、魂の半身として縛った。ラーグが狂わぬように。  蒼天の手から取り返したルクレシスは傷から止まらぬ血を流し、浅い息を繰り返していた。身体は冷え、月の女神のレリーフのように青白くなっていた。傷口に構わず掴み上げた。細い腕はラーグの掴んだ指が余ってしまうほどの細さだ。ラーグは指の間からじわりじわりと溢れる血を舐め取った。頬を流れる涙も舐め上げて、血も涙も甘い。  痛みに呻く声で取り返した実感を持てた。そのため、かなり無体を強いたのは自覚がある。  冷えた四肢とは対照的に啜った血も剛直を包み込む体内も熱かった。  譫のように呼ばれる名に応えるように亀頭で擦り上げるとびくびくと腰を痙攣させ、放ち過ぎた陰茎からは透明な液体を零していた。 「あっ、つぃ…ん、あぁ…んん!」  最早何度体内に放ったか憶えていないが最後の白濁を最奥で放って、陽根を引き抜いた。抜ける感覚にか鼻にかかった声が上がる。ずるんと引き抜くと栓無くした身体からとろりと精液が垂れてくる。垂れる感覚に下肢が粟立つのか、足指が敷布を掻いて甘い声を上げていた。  華奢な身体に合わない剛直を咥えていた蕾は開いたままになり赤くてらてらと滑る粘膜を晒していた。そこからとろとろと、時に体内の動きに合わせて粘液をごぷりと零していた。  激情のままに最奥まで穢し、真っ白な身体に擦過傷の赤みをかき消す真っ赤な鬱血痕を刻み込んでやっと安心したのだった。 (さて、二度と離れぬようにどうしてやろうか…)
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